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那覇地方裁判所 昭和52年(ヨ)85号 判決 1979年3月29日

債権者 兼本糸子ら別紙債権者目録記載の一二四一名

右訴訟代理人弁護士 照屋寛徳

同 水上学

同 吉田健

同 永吉盛元

同 佐井孝和

同 池宮城紀夫

右訴訟復代理人弁護士 鈴木宣幸

沖縄県中頭郡与那城村字屋慶名六七七番地

債務者 沖縄石油基地株式会社

右代表者代表取締役 今東壽雄

右訴訟代理人弁護士 西迪雄

同 井関浩

同 真喜屋実男

東京都港区赤坂一丁目六番一九号

債務者 沖縄ターミナル株式会社

右代表者代表取締役 高野子雅宣

右訴訟代理人弁護士 真喜屋実男

右訴訟復代理人弁護士 阿波連本伸

主文

債権者らの申請をいずれも却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

事実

(申請の趣旨)

一  債務者沖縄石油基地株式会社(以下、債務者石油基地という。)は別紙物件目録(一)記載の土地上に同目録記載の危険物貯蔵所等の建築工事をしてはならない。

二  債務者沖縄ターミナル株式会社(以下、債務者ターミナルという。)は別紙物件目録(二)記載の土地上に同目録記載の危険物貯蔵所等の建築工事をしてはならない。

三  申請費用は債務者らの負担とする。

(申請の趣旨に対する答弁)

主文と同旨。

(申請理由)

一  当事者

1  債権者らは、沖縄本島中部東岸に位置する金武湾及び浜比嘉島(別紙図面(一)参照)付近を生活の本拠として恵まれた自然環境を享受し、あるいは同付近に居住して漁業に従事している者である。債権者らの居住する右地域のうち、中頭郡勝連村字浜は、債務者らが計画している後記危険物貯蔵所の設置予定地から南東約一キロメートル、中頭郡与那城村字屋慶名は右予定地から約四キロメートル、同郡同村字照間は約五キロメートル、貝志川市は約七キロメートル離れたところに位置する(別紙図面(一)参照)。

2  債務者石油基地は、石油類の貯蔵及び受払作業並びにこれに関連する事業を営むものであり、別紙物件目録(一)記載の埋立地に同目録記載の危険物貯蔵所を建設することを計画し、その工事に着手しようとしている。債務者ターミナルは、石油精製及びこれに関連する事業を営むものであり、右埋立地に隣接する別紙物件目録(二)記載の土地上に同目録記載の危険物貯蔵所(以下、債務者石油基地設置予定のものと併せて、「本件CTS」という。)の建設を計画し、着工しようとしている。

債務者両名の工事概要は左のとおりである。

債務者石油基地は、本件埋立地に、タンク一基について、容量九万九五〇〇キロリットル、内径八〇メートル、高さ二二メートル、重量二〇〇〇トンの基準で、合計二一基の原油貯蔵タンクを建設しようとしている。そして付帯設備として通気弁(大気圧弁付ブリーザー)、エアフォームチェンバー、パイプを、更に高さ一・八五メートルの防油堤、同じく一メートルの仕切堤等の工事を行なわんとしている。二一基の原油タンク群と埋立地との位置関係は別紙図面(二)のとおりであり、タンク本体、基礎付近及び仕切堤の概要は、別紙図面(三)ないし(五)のとおりである。

債務者ターミナルは、与那城村字平安座六四八三番地に、タンク一基について、容量九万九五〇〇キロリットル、内径八〇メートル、高さ二二メートルの原油貯蔵タンク四基を別紙図面(六)のとおり建設しようとしている。

二  被保全権利について(人格権又は環境権)

一般に、個人の生命、身体の安全及び精神的自由並びに平穏自由で人間たる尊厳にふさわしい生活を営み良き生活環境を享受することは、明文の規定はないものの、憲法一三条、同二五条の趣旨からみて、最大限に保護かつ尊重されるべきであり、個人に疾病をもたらす等の身体侵害行為はもとより個人に著しい精神的苦痛を与えあるいは著しい生活上の妨害を来たす行為が存在する場合においては、右のような利益の総体としての人格権又は環境権に基づき、その侵害の排除を求めることができ、更にそのような侵害が現実のものとなっていない場合でも、その危険が切迫しているときには、事前に侵害行為の発生を禁止することを求めることもできると解すべきである。

債権者らは、右のような人格権及び環境権に基づき、債務者らが設置計画中の本件CTS工事の差止めを求めるものであり、以下申請理由三ないし七項においては、本件CTSが建設されれば、債権者らが身体侵害、精神的苦痛及び環境破壊によるその他の生活上の妨害を被る高度の蓋然性が存在することを、また同八ないし一一項においては、右の点に密接に関連するその他の事情を、詳述する。

三  債務者石油基地設置予定にかかる本件CTSの地盤の問題点について

本件CTSが建設された場合に予想される危険を考えるに際しては、まず債務者石油基地の設置予定にかかる本件CTSの地盤の特殊性に由来する事故の発生に留意しなければならない。

1  債務者石油基地による本件CTS設置予定地は、沖縄本島中部東海岸に位置する宮城島と平安座島間の水深約五メートル、広さ約六四万坪余の海面を、その東方の約八三万坪の海域からポンプで深さ約一〇尋にわたり採取した砂泥をもって埋め立てて完成した土地である。

2  そして右埋立地の表面より旧海底面下までの埋立層は、海底浚渫土で構成されており、含水比が高いうえ、決して砂礫層とはいえず、多量にシルト、粘土等の細粒分を含有し、不均一なサンゴ破片、貝ガラ片を混えている。これはサンドポンプで底土を海水とともに吸入し、パイプラインで埋立区域に放出するという埋立工事による底土の攪乱及び浅海干潟の底質、その内湾域における沿岸地質の複雑さのためであり、右埋立層は軟弱性と不均一性という特徴を有する。

つぎに右埋立層の下の旧海底部分の地質についてみると、地下五〇メートルまでボーリングしても、原油タンクを支えるに足りる支持力を有する岩盤はおろか、砂礫層もほとんど発見されず、深度七メートル以下(旧海底面からは二メートル以下)では粘土層のみが連綿として続いているのである。比較的強度の性質を有する砂礫層が存在する部分も、その層厚は約一~二メートルしかなく、しかも砂礫層は長期にわたる侵食のため、かなりの部分が新しい軟弱上に置きかわっているのである。旧海底部分の大半を構成する粘土層(沖積粘土層、島尻粘土層)は、債務者石油基地が自ら調査したボーリング結果によると、上から砂質粘土、粘土という推移があり、陸地に近ければ近いほど砂質粘土の層厚は厚く、埋立地中央部に至っては、侵食と風化のために砂質粘土は存在しない。

島尻層は多くの場合、陸地において地すべりや地盤沈下を起こすが、これは島尻層が水を含むと容易に分解し、粘土化されやすい性質を有するため地形によっては地すべり域、あるいは二次的な沖積粘土を形成し、流動性を呈す地すべり粘土に変質しやすいからである。また、土が流動性に至る水分の量、すなわち液性限界値が自然含水比とかなり接近しているため、小さい衝撃や長雨に対して、著しく流動する特殊な性質を持っているからである。

ましてや本件埋立地のごとく、島尻粘土が海底下に存在する場合は液性限界値と自然含水比に開きがなく、自然状態において既に危険なすべり面を形成していると考えられる。これは海底下にあっては、島尻粘土が潤滑と保水性の役割を演ずる可能性が大きいこと、また直接海水にさらされる場合、あるいはいったん乱されたものほど、著しく支持力を低下させるからである。

3  そして右地盤の各地質がどの程度の重量の構造物を支持するに足りるかを算定すると、別表(一)下段のとおり、埋立粘土層一・四トン、島尻層のうち地上に近い部分に位置する沖積粘土層二・五トン、島尻粘土層三・六トン(いずれも一平方メートル当り)という結果が得られた(算定方法は別紙計算式(一)のとおり)。これは、右1のとおり埋立層が不均一性を有することに加えて、埋立層の下の旧海面下の島尻粘土層の傾き、海底砂礫層(裾礫)の層厚と分布状祝がいたって不均等、不均質であること、同一地層においてもN値にバラつきがあること等の本件埋立地地盤の特性を考慮して支持力を算定したものである。また本件埋立地の地盤を構成する海底砂礫層は、その形状、硬軟、破砕度において粗な間隙を有しており、支持力算定式を適用することは相当でない。債務者石油基地は、以上の様な本件埋立地地盤の地形・地質を無視し、極めて非現実的な結論を出している(別表(一)上段参照)。

ところで、債務者石油基地が計画している高さ二二メートルの原油タンクの荷重は、タンク内に水を張った時点において、一平方メートル当り、水が二二トン、タンク本体が約〇・三トン、基礎盛土が湿潤単位体積重量一・六として一・六トンの計二四トンとなる。ちなみに基礎盛土の一・六という値は上からの荷重によって時間とともに上昇するものであって、一・六というのはその下限を示すにすぎない。結局、設計荷重は少なく見積っても一平方メートル当り総計二四トンという値になる。そして長期荷重における構造物の安定を期するためには、一般建造物と同様に地震時の外力をも含めた処置として少なくとも安全率三・〇を見込むべきであるから、本件原油タンクを建設するためには、基礎地盤は右荷重の三倍に相当する一平方メートル当り七二トンの支持力を必要とするというべきであり、本件埋立地は基礎地盤として全く不適当である。

4  右に述べた基礎地盤の危険性は、債務者石油基地が主張するような地盤改良を施しても消し去ることはできない。同債務者は、埋立地表面から深さ五ないし一〇メートルまでの埋立層及び旧海面下の一部に存在する粘土層を対象として、サンドドレーン・プレロード工法により、右対象土地部分に砂の杭を打つとともに埋立地上に浚渫土を盛土して対象土地部分の水分を抜き取り、その支持力をタンク設計荷重一平方メートル当り二二トン(同債務者の算定数値)の少なくとも一・五倍以上(同債務者は安全率を一・五とする。)に増強すると主張する。

しかし、まず第一に地盤改良の対象とされない深度一〇メートル以下でも、また島尻粘土層であっても、不均質且つ軟弱な地層が数多く見出される。債務者石油基地は、右島尻粘土層が相当な過圧密であって、一平方メートル当り四六トンの支持力を有し、全く沈下がなく、良好な支持層であると主張するが、過圧密粘土においても沈下を生じている幾つもの事例があり、下方に強固な支持力を有する地層がない以上、いかに表面の地盤を強化しようとも、本質的に本件地盤は、タンクを支持することが不可能である。

つぎに、サンドドレーン・プレロード工法に基づく一定の効果を得るために要する盛土による圧密時間は、本件埋立地地盤のより厳密な地層区分に基づいて計算すると、別表(二)(三)のとおり、圧密度九〇パーセントになるまでには、タンク中心部において最も長い六一〇・一日、つまり、一年七ヶ月以上のプレロードが必要ということになる(算定方法は別紙計算式(二)のとおり)。ところが、債務者石油基地はその計算に基づいて、一二三日の圧密時間で本件工事を行なおうとしており、これでは効果を期待できない。なお、右のように厳密な地層区分に基づき、右債務者が放棄した島尻粘土層の沈下も加味して計算すると、圧密沈下量は多いところで約九〇センチメートルとなり、右債務者の算定数値が不当に低いことが判明する。

更に、ここで見逃してはならないのは、土のセン断破壊に伴うクリープ沈下の危険である。すなわち、本件埋立地地盤のように水分を多く含んだ粘性土においては、地盤の支持力以上の荷重を加えても脱水による支持力の増加は、タンク中心部においてはある程度得られるが、タンク周辺部では期待できず、かえって横方向へ移動していく力で土を変形させていく(地すべり現象)のである。また、土が不飽和の土や砂礫の場合、あるいは過圧密層がある場合には、脱水現象を圧密論の枠だけでとらえることはできず、圧密沈下の量よりも、クラックや永久変形をきたすことによって生じる沈下の量、即ちセン断破壊型の沈下の量の方が大きい。そしてそれは、直接基礎となる盛土部分へ沈下量を伝達することによって、タンク破壊につながるような変形を与えるのである。そして、先のわれわれの計算によれば、プレロードの盛土高さが六メートルを超したとたんに、土のセン断破壊は進行しはじめるのである。したがって、債務者石油基地の言うように盛土高さを八メートルにし、あるいはタンク設計荷重に相当するという一二・五メートルの盛土(疎乙第四〇号証の別添資料、「タンク荷重及び盛土荷重に依る地中増加応力係数の比較」参照)を載荷していったり、それに相当する水張り荷重を施行していった場合、地盤は圧密による支持力上昇とはうらはらに、土を破壊し乱していくという矛盾した危険をはらんでいるのである。

本件埋立地の地盤改良には、以上のような問題点があり、しかも債権者らの指摘したように、盛土の高さを六メートルにとどめ圧密期間を十分とっても、地盤の支持力は埋立粘土層七・六トン、沖積粘土層八・七トン、島尻粘土層九・九トン(いずれも一平方メートル当り)程度にしか増強されない(別表(一)参照)。したがって地盤改良を行なったとしても、本件タンクのように設計荷重二四トンというのは、設置不可能な重量といえる。このような貧弱な地盤に対しては、タンク高さは一〇ないし一五メートル程度が限度である。本件埋立地に債務者石油基地が計画している原油タンクを建設すれば、原油タンクの破壊、原油流出、火災・爆発といった事故が発生することは必至である。

5  また、右2のとおりの旧海底下の各地質並びに埋立層及びプレロードの盛土に使われる海底浚渫土は、いずれも不均質であり、原油タンク基礎部分の不等沈下の原因となる。その結果タンク側板部の変形・応力の集中、タンクの亀裂・原油流出、火災・爆発といった事態に発展する危険が極めて高い。

のみならず、砕石リングを敷くほかは、透水性、強度、均質性のいずれをも満たしていない海底浚渫土が用いられるタンク基礎は、万一、後記四6のようにアニュラプレートや底部の脆性破壊が起こった場合、たちどころに収縮・流動化してしまい、再び水島事故のように、大量の油の流出となるであろう。しかも透水性のよい基礎ならば、底板からの少量の油もれでも検知できるが、本件のように透水性の悪い基礎では、発見が遅れ、事故に対して手遅れとなる可能性が大きい。

四  その他の原因による原油タンク事故発生の危険性について

三では債務者石油基地による本件CTS設置予定地の地盤の問題に起因する原油タンク事故発生の危険性を見たが、本項では、債務者両名による設置計画中の原油タンクについて、その他の原因に基づく事故発生の危険性を指摘する。

1  原油は、引火点が零度C以下であり、加熱しなくても火源がその蒸気に触れるだけで燃焼を起こす性質を有している。つぎに、原油の蒸気の比重は空気より大きいため、原油の蒸気がタンク屋根から外部に放出され、降下して地表にたまることがあり、そのようにして原油の蒸気が空気中にごくわずかな濃度でも存在する場合において、火源があるときには、爆発が起き易い。また原油の比重は水より軽いので、ひとたび火災が発生した場合に大量の注水をすると、油が水に浮いて消火が困難になる。更に原油は、水に溶けにくいため、着火源の一つである静電気を発生させる危険を有している。

右のように本件CTSにおいて扱う対象物は、危険な特性を有しており、これに他の要因が重なり以下2ないし9のように大きな事故が発生するおそれが極めて高いのである。

2  誤操作又は保全不良による油流出又は火災事故

原油タンクの管理及び操作は比較的単純な作業が多いため、作業員の単純ミスや管理不十分が起き易く、それらに前述のような原油の特性が重なり、原油流出又は火災といった事故を招くおそれがある。現に債権者らの調査によっても、昭和三九年から昭和五〇年までの間に国内の石油タンクについてこの種の原因による事故が、左表のように八件見られる。

発生日・

場所

事故概要

備考

一九七四年

二月

日本

五一〇キロリットル重油タンクの注入口配管部に構内作業車が衝突し、バルブフランジを破損したため、重油が約四キロリットル流出し、排水口を経て湾内外に流出。

(外因)

一九七五年

一月

日本

直径六〇メートル、高さ二〇メートル、八万キロリットル原油タンクから常圧蒸留装置への送油管のバルブを開放したまま清浄用のガスを送気したため五ないし七キロリットルの原油が流出。

(誤操作)

一九七四年

一二月

日本

検尺パイプを清掃中誤って油を二百リットル流出。

(誤操作)

一九六二年

八月

日本

三〇〇〇キロリットルのコーンルーフタンクに軽質ナフサ三〇キロリットルが残っていたところに重質ナフサ二五〇キロリットルを送油したところ、急激に真空が生じ、大音響とともに、側板は内面に座屈した。

空間ガスが重質ナフサに急激に吸収されたことと、ベント弁がサビつき、作動しなかったことが原因(保全不良)

一九七四年

四月

日本

直径四四メートル、二・五万キロリットルのナフサタンクの浮屋根の排水管が故障しているときに、非常排水口の水シールも不十分であったので、ナフサが屋根上にまわりこみ、浮屋根は沈下した。

(保全不良)

一九七四年

三月

日本

直径五〇メートル、高さ一八メートル、三・六万キロリットルのドームルーフ重油タンクの空気抜きパイプにビニールシートを被せたまま送油したため真空となり、屋根が飛びこし座屈を起こした。

(作業不良)

一九五四年

一〇月

日本

八〇〇〇キロリットルの重油タンクが火災を起こしたが、この原因については、一ヶ月前に原油から重油に切替えたので清掃不十分で揮発性ガスが残留していたのではないかと言われる。

(作業不良)着火源は不明

一九五四年

一〇月

日本

四基ある原油タンク群のうちの一基(八〇〇〇キロリットル)から火の手があがり、他のタンクにも引火して工場敷地の三〇パーセント以上が焼失する大火災となった。社会的にも、油火災に対する関心が高められた事故であった。

タンク操作に高温油を張込むなどの重大なミスが認められた。(誤操作)

3  原油タンク建設時の設計及び施行不良による原油流出事故

債務者らを含め企業は、営利を目的とするものであり、原油タンクの建設に際しても定められた法的規制の枠内において最大限の経済性を追求し、安価且つ短期間にこれを完成しようとするわけであり、その結果設計及び施行上の欠陥が生まれ、これが原因となって大事故を招く危険性がある。昭和四九年一二月一八日に起きた三菱石油水島製油所の重油流出事故は、後記一一で詳しく触れるが、経済性追求のあまり、軟弱な埋立地を基礎地盤に利用してタンクの不等沈下を招いたことが大きな原因とされている。

4  静電気による爆発及び火災事故

一般に静電気現象は、不純物の含有状況、表面状態、温度、湿度等の極めて多くの諸因子が複雑に影響しあって発生するものであり、水に溶けにくい性質を有する原油の表面上においては、静電気現象が発生する度合は高い。このため、些細なことが契機となって原油タンク内に静電気が起き、それが着火源となって原油タンクの爆発及び火災といった事故が発生する危険も多分に存在する。債権者らの調査によれば、昭和三六年から昭和四〇年の間に三件のこの種の原因による原油タンク事故が報告されているほか、米国においても事故例をみている。

5  原油タンクの腐食による原油流出又は爆発事故

公害防止のための臭水装置からタンクに送られる油に含まれる高硫黄分が硫化水素やメルカプタンの混合ガスを発生し、これによってタンクの側壁や天井が腐食され、またタンク内の梁や支柱が破壊され、その際に発生する衝撃火花が油に引火して火災を起こすことがある。昭和五〇年二月の四日市大協石油における事故は右のようなものであった。

更に、原油中に含まれるか又は原油タンクの屋根から滴下する水分中に含まれている塩分、水溶性イオン及び硫化物等並びに外気、土壌中に含まれる塩分によりタンクが腐食して漏油事故が発生する危険も多い。とりわけ沖縄の気象は高温多湿であり、また本件CTS設置予定地は塩分を含んだ砂地であるばかりか、台風等によって海水がかかることも多いと予想されるため、右のような事故が発生する危険性は一層高いというべきである。にもかかわらず、債務者らは本件CTSの原油タンクについて二〇年間の継続使用を予定し、且つ腐食を抑制するだけの効果しかない電気防食法をタンク側板の外面に施すということであるので、それを施された部分すら腐食が完全に予防されるわけではなく、ましてやそれが施されていないタンク内部の原油と接する部分の腐食を抑えることは全く困難であり、前記危険は現実のものと懸念される。

6  原油タンクのアニュラプレート部分の脆性破壊による原油流出及び火災事故

原油タンク底板外周部にあって原油タンクの側板を支えている高張力鋼板をアニュラプレートといい、鋼材が秒速三〇〇〇メートルで割れる現象を脆性破壊というのであるが、本件CTSの原油タンクをはじめとする最近の石油タンクは巨大であるため、それに応じるだけの安全な構造上の強度を確保することに困難な点があることに加えて、アニュラプレート部に溶接を施行する際の些細なミスや原油タンクの基礎地盤が強固でないことがあり、それらが重なった場合には、アニュラプレートの特定の部位に限界以上の荷重が加わり、その部分から脆性破壊が起きて原油流出、火災事故へと発展する危険性がある。

ちなみにJISB八五〇一なる基準によれば、石油タンクの側板はそこにかかる許容応力の三分の五倍以上の強度を有する高張力鋼を使用して建設されるように定められ、本件CTSの原油タンク側板もHW50という高張力鋼を使用して右基準に適合するように設計されているようであるが、API六五〇なる基準や有力な工学者の提唱するところによれば、右程度では安全とはいえず、許容応力が降伏点の三分の二及び引張り強度の八分の三のいずれかの小さい方以内になるように設計すべきであるとされている。そしてこの問題は、原油タンクの側板鋼材にとどまらず、アニュラプレートについても同程度又はそれ以上の強度が考慮されるべきであるが、前記JISB八五〇一においては、アニュラプレートの板厚は、その強度がそこにかかる許容応力と同一であるようなものであればよいと定められているにすぎず、しかも本件CTSの原油タンクはこれに適合するような鋼材で建設されようとしているにすぎないから、本件CTSの原油タンクは脆性破壊を起こす高度の危険性を有しているというべきである。そればかりか本件CTSの原油タンクは、他の石油タンク一般と同様に、完成時点での鋼材の強度を基準にした設計であるにとどまり、前記5のようにして年月の経過とともに進行する原油タンク壁の腐食等によって、亀裂ができないまでも高強力鋼の強度が低下し、脆性破壊が生じ易くなるといったことは考慮されていないのであるから、なおのこと危険性は高い。

7  落雷による火災事故

落雷による原油タンクの火災事故は、アメリカでは静電気による事故に次いで多い。日本でも昭和三六年七月に起きている。

8  暴風雨による原油タンク破壊事故

油が空に近い状態の原油タンクの側板が強風によって破壊される危険が懸念される。

また、原油タンク浮屋根の上面にたまった雨水が、十分に排水されないため、浮屋根が沈没して原油流出事故が発生する危険もある。

更に、高潮により護岸、防油堤、タンク本体等が破壊される事故の発生する危険もある。

以上のような事故の発生は、台風の多い沖縄では極めて蓋然性が高いというべきである。

9  地震による爆発、火災事故

日本は地震国であり、地震が起きた場合には、原油タンク基礎地盤の崩壊、原油タンク本体の変形・破壊等による原油流出、衝撃による引火・火災といった事故が起き易い。更に消化設備、防油堤の機能も低下するため、被害は甚大となる。昭和三九年発生の新潟地震による事故は著名である。

五  タンカー運航による危険性について

1  巨大タンカーの操船と海難事故の危険性

三〇万トン、五〇万トンという今日の超大型タンカーは、生産性、経済性のみが追求された合理化の産物であり、その積載物が石油という危険物であると同時に、タンカーそのものが操船困難な危険物である。船が巨大化するに従って、操船が困難化し、海難事故の発生率が高まるというのは、いまや一般的な常識となっており、否定しがたい事実である。

まず停止距離、停止時間が大きくなる点に注意しなければならない。すなわち、二〇万トンタンカーが初速一六・六ノットで逆転停止した場合、船体が停止するまでの時間は約二〇分、停止までの航走距離は四七五〇メートル、船長の一四・六倍となり、一五万トンタンカーでは一四分、四一六五メートル、一二万トンタンカーでは一二分、三二一二メートル、七万トンタンカーでも一一分、二七二〇メートルとなる。

第二の問題として、操縦性能に劣るということがある。超大型船の操縦性能の特徴は一口にいうと、「旋回性はよいが、針路安全性、追従性が悪い」ことである。例えば二〇万トンタンカーの場合には、長き三五〇メートル、幅六〇メートル、高さが一八階建のビルと同じで、デッキの広さは後楽園球場の三倍あるが、その旋回径は、一般船に比較して大差なく、やや船の長さにくらべて小さい。しかし追従性が悪く、操舵に応答するまでに長時間を要し、その間は、そのまま直進する。更に超大型船は、針路安定性が悪く、直進中に風雨、潮流等の何らかの外力をうけて元の針路からはずれはじめると、外力がなくなっても一定針路におちつかず、ますます方向を転じて、遂には旋回に至る性質を有することが多い。

なお、港湾内での航行や着離桟には、タグボート(引船)が使用されるのが一般的であるが、タグボートによる操船、着離桟も、タンカーが超大型化するに従い、現状では必ずしも十分な効果をあげえない。

このため、巨大タンカーは他の船舶に比して衝突、座礁等の海難事故に遭遇する確率が高く、原油流出、火災事故を発生させる危険がある。

2  金武湾におけるタンカー運航の危険性

右1のような巨大タンカーの操船に伴なう一般的な危険性に加えて、本件CTSに出入りするために大型タンカーが航行することになる金武湾固有の問題に注意しなければならない。

金武湾の湾口は三〇〇〇メートルであるが、湾口の北東にはキャンプシュワーブ水域(米軍使用水域)がかなりの広さで設定されており、また伊計島北東端の東北東方面にはメングイ礁といわれる最小水深一〇・九メートルの浅瀬があるため、タンカーの航路として使用できる湾口幅は約八〇〇メートルしかない。ところが、超大型タンカーの航行に十分且つ安全な航路巾は、水路中央から片側だけで、船幅の六倍であるから、船幅五〇メートルの三〇万トンタンカーでも三〇〇メートル、五〇万トンタンカーとなれば、四〇〇メートルが必要となる。したがって、金武湾における航路巾は極めて狭いといえる。そのため、メングイ礁に接近し乗揚げる危険性も十分考えうるし、むろん船舶同志の衝突の危険性もある。

また、金武湾の湾奥には、米軍専用の天願桟橋の他、各種企業による既設の桟橋が存在し、金武湾、中城湾は重要港湾となっている。そして金武湾、中城湾地域は、今後工業開発地域として発展すると予想されている。このように金武湾に入る船舶数は増加の傾向にあるが、衝突などの事故は、船舶数が二倍にふえると四倍に、四倍になれば八倍にと加速度的に増えるとされており、特に操船能力に劣り、他船を自力で回避することが不可能に近い超大型タンカーが入港することは、その危険性を更に増大させることになろう。

3  海難事故以外の事故発生の危険性

右のような衝突、座礁といった海難事故の他に、左のような原因により、タンカーは停泊中、荷役中、タンク洗浄中、修理中とあらゆる機会に爆発事故を起こす危険性を有する。

まず爆発性混合ガスに静電気が引火して、火災・爆発事故を起こす危険がある。タンカーで輸送される大量の石油類は、常に可燃性ガスを揮発しており、この可然性ガスと空気が適当に混合して爆発性混合ガスを発生させる可能性が大きい。他方、石油類は、炭化水素系絶縁体であり、精製工程及びタンク貯蔵・タンカー輸送・パイプライン荷役などに際し、タンクやパイプラインの鉄板と流動する石油との界面、石油と石油中の水滴や金属の粉末、つまり「エマルジョン」や「コロイド」との界面、あるいは「水蒸気ミスト」と空気との界面には必ず静電気が発生する。これを少し具体的に述べると、

(1) 無接地のフランジとゴムホースの間部分

(2) 洗浄作業中のクリーニングマシンから噴出する蒸気部分

(3) 船側貨物パイプと陸上パイプを連結する時又は取りはずす時の連結部分

(4) 積荷の重量変化により吃水が変化する時の陸上パイプとの連結部分

(5) 検尺棒によるサンプリングの際のタンク内

等に静電気が発生する可能性が高い。このように爆発性混合ガスに静電気が引火して火災・爆発事故が起きる危険性が高いのである。

更に「ベントライン」よりの排出ガス、あるいは「アレージホール」よりの漏洩ガス、そして「ストレーナー」の油もれ等で、居住区内および機関室内の空気中に爆発性ガスが存在し、それに対して、次のような静電気以外の原因で火気が発生し引火する危険性も高い。即ち (1) マッチ、タバコ、料理などによる裸火 (2) 鉄工具又は鉄鋲のついた靴で甲板を強く打った火花 (3) エンジンの火花 (4) 防爆型以外の電気器具による火花 (5) 無線発信時にアンテナ引込口に発生する火花 (6) 落雷による火花が発火源となる事故の発生である。

六  予想される火災事故の規模と消防体制の問題点

1  前述のような諸原因によって現実に火災が発生した場合に予想される火災の規模及び特質は、ふく射熱を用いた計算によれば、左のとおりと考えられる。

まず、一基のタンクの上面の全面積が火災となった場合、無風時において、露出人体が接近できる限界距離はタンク側板から、二六〇メートル、木造建物に対する延焼危険距離は一〇〇メートル、耐熱服着用者の接近可能な限界距離は二八メートルとなる。

つぎに防油堤内全面火災(タンク四個)の場合、無風時において、露出人体の接近可能な限界距離は、防油堤から九一〇メートル、木造建物に対する延焼危険距離は三五〇メートル、耐熱服着用者の接近可能な限界距離は九八メートルとなる。風速毎秒六メートルならば、風下側において、それぞれ、九八〇メートル、四三〇メートル、二〇メートルとなる。風速毎秒一三メートルならば風下側において、それぞれ、一〇九〇メートル、五〇〇メートル、一三〇メートルとなる。

ところで、債権者らの一部が居住する桃原区の民家と、予定される最近接タンクとの距離は三五〇メートルである。よって、防油堤内全面火災が起これば、この地区の住民及び家屋に、ふく射熱による火傷、延焼等の被害をおよぼすことは明白であり、もし火災時、この地区が風下側にあれば、約三〇〇メートルの火柱とその数倍の黒煙とで、この地区を上からおおいつくす形になるだろう。防油堤の容量から考えても、同じ防油堤内のタンクが二基、火災で破壊すれば、火のついた油が防油堤を越えて、この地区に流れ込み広範囲に火災を起こすと考えられる。

また、二〇万トン級タンカーから二万立方メートルの油が海面に流出した場合を想定して計算すると、(イ) 流出後一〇分で流出油面半径は三四〇メートル、(ロ) 同三〇分で同四七〇メートル、(ハ) 同二時間で同五六〇メートルとなる。そして流出油面に火災が発生した場合、風速毎秒一三メートルの風下においては、人間の接近限界距離及び木造建物の延焼限界距離は、右(イ)の場合で約二キロメートル及び一キロメートル、(ロ)で三キロメートル及び一・五キロメートル、(ハ)で三・五キロメートル及び二キロメートルとなる。

2  次に消火設備についての問題点に留意しなければならない。

油火災に対する消火方法には、ハロゲン化物消火法と泡消火法が有効であるといわれている。しかし、前者は風の影響を受け易いため、タンク火災のような激しい上昇気流を伴なう火災には効果を発揮できないし、強度の毒性がある点でも問題である。

また後者の泡消火剤は使用中たえず破壊され、特に火にさらされると弱いので、供給速度とともに、量が効果を得るために重要であり、本件タンクに予定されているJISB八五〇一による基準に達する程度のものではそれ程の消火活動が期待できない。このことは昭和五〇年二月一六日に発生した大協石油四日市製油所のタンク火災に際して実証されている。

更に泡ノズルによる放射距離に限界があるため、消火作業に際しては普通型の泡ノズルの場合は燃焼油面から約一六メートルの距離まで(最大到達距離は約二八メートル)また大型の場合でも同様に約三〇メートルの距離まで(最大到達距離は約五五メートル)接近する必要があるが、前記1のように防油堤内全面火災又は海面流出油火災が起これば、耐熱服着用者でもそのような距離に近づけない。また、一基のタンクが火災を起こした場合でもスロップオーバー(燃焼油面温度が一〇〇度Cを超えているとき冷却その他注水している消火液中の水が誤って入れば、その水は急激に一六〇〇ないし一七〇〇倍にぼう張し、突沸現象を起こし、付近の燃焼油も噴霧化し爆発的に燃焼してタンク外まで油が溢れ出る現象。)やボイルオーバー(重質油(原油及びA、B、C重油など)が燃焼すれば、その油面下を毎秒一五ないし二五センチメートル位で燃焼油面とほぼ同温に近い熱波(ヒートウエーブ)が下降していく。この熱波がタンク低部にある原油自体に含まれる水面の五ないし一七センチメートル附近まで到達すれば、スロップオーバーと同様、水が一七〇〇倍前後に突沸し、内部の油が急激に燃焼し、炎とともに、ほとんど全ての油をタンク外に押し出してしまうが、この現象をいう。)が生じることがあり、その場合には防油堤内火災と同様の事態となり、泡ノズルの有効放射距離まで接近して消火活動をすることができない。

以上のように油火災に対しては有効な消火方法はなく、消火活動はほとんど不可能である。なお海面流出油火災の場合、最も重要な対策は、その燃焼面積を局限する「オイルフェンス」の展張であるが、オイルフェンスは、その展張作業に舟や人間が必要で長時間を要し、且つ風や、波浪、潮流などに弱いという欠点を有する。

3  右2で述べたように、原油タンク等の火災に対する消防活動には性質上の限界がある。それに加えて、本件CTS設置予定地の与那城村等の有する防災設備は、全く貧弱なものにすぎない。すなわち、与那城村は勝連村と協力して昭和五一年一〇月一日付で与勝消防本部を設置したが、その防災装備の概要をみると、本部消防職員三〇名、消防ポンプ車四台、指令車一台、ジープ車一台、救急車一台、その他消火栓設備の保有であり、最も重視されるべき化学消防車にいたっては、一台も配備されていない状態である。これは昭和五〇年五月付の消防庁告示「消防力の基準」二条二項にいう、一般火災消防装置充足率の三一・二パーセントとなる程度にすぎない。なお同基準一二条二項による第四類石油危険物貯蔵に関しては、四台の化学消防車の配備が義務づけられている。

もっとも、与那城村内には、既に、原油基地の債務者ターミナルと精製基地の申請外沖縄石油精製株式会社が設立され、前者は、原油タンク一二基を有し、後者は県下最大の日産一〇万バーレルの原油処理能力を誇り、原油タンク二基四万八〇〇〇キロリットル、製品及び中間製品タンク三七基六万六〇〇〇キロリットル、LPGタンク五基二万四〇〇〇トン、硫黄タンク九〇〇〇トン、その他精製装置、出荷用シーバースを備えて操業し、オイルフェンスや油吸着材や乳化剤等の資機材は、基準の一倍から六倍近く保有し、化学消防車三台、常駐要員一二名、消防艇四隻を備えている。しかし、万一、火災が発生すればコンビナート大爆発に容易につながる危険性があり、以上の消防装備力ではどうにも対処し得るはずがない。

七  海洋汚染及び大気汚染の危険性

1  前記三ないし五のように大規模な原油流出事故による場合の他に、本件CTSが設置されれば、左のように徐々に海洋が汚染され、漁業を営む債権者らに多大の損害を与えることになる。

まずタンカーから排出される含油水によって海洋が汚染される。タンカーから排出される含油水には、ダーディバラスト水、ビルジ水、クリーニング水とがある。タンカーは貨物油を積みおろし後、安全に能率よく運航するため、空になった船倉に積載重量の約四〇パーセント(外航タンカーの場合)の海水を注入するが、これをバラスト水といい、そのうちタンク内の残油、付着油と混濁して、汚染したものをダーティバラストという。ダーティバラストは積み地に向う航行中に海へ排出される。ビルジ水とは、船のポンプのグランド部、エンジン等で海水と真水に燃料油、潤滑油が混入したものであり、クリーニング水とは、タンカーのタンク内部に付着している油を除去するため、海水を加熱し、これで高圧スプレーする際の排水をいうが、いずれもそのまま海へ排出される。もっとも昭和四二年施行の「船舶の油による海水汚濁の防止に関する法律」により、今後建造される二万トン以上のタンカーには、油水分離するためのスロップタンクが設置され、油分を、およそ一〇〇PPm含んだ海水として処理されることとなった。しかしそのような濃度の含油水でも、絶対量が増えれば汚染度は高くなるわけであり、巨大タンカーの往来が激しくなる本件CTS近海の海洋が汚染されることは避けられない。

また、タンクの、浮屋根に付着した油や、堤内の油は降雨時に流され、本件CTS設置予定地付近の海面を汚染し、漁業被害を与えることになる。債務者らは、含油雨水について、これをドレンタンクに収容して廃水処理を施した後に海中に排出するから海洋汚染のおそれはないと主張するが、右ドレンタンクは約一時間半の継続降雨量を収容する程度の容量しかなく、且つその廃水処理能力が不明であるから、未処理の含油水が海洋に排出されるおそれは多分にあるというべきである。

このことは、債務者石油基地主張にかかるタンカーのダーティバラストを陸上で油水分離するためのバラストタンクについてもそのままあてはまる。そればかりか右ドレンタンク及びバラストタンク内に設けられる申請外千代田化工株式会社製の活性炭処理設備は、既に鹿児島県所在の申請外日本石油喜入基地において使用されたが、海水に含まれる塩分によって、活性炭は再生不可能となり、廃水処理ができなくなった事実が判明している。また、この活性炭処理設備は油分を蒸発、燃焼させるものであるから、製油所同様に亜硫酸ガスや窒素酸化物が排出され、更に排水処理の各過程でスラッジを放出するという短所を有する。

2  次に大気汚染の問題を考える。原油は揮発成分を大量に含むため、常温では絶えず蒸発している。まず浮屋根式タンクの場合主に浮屋根と側板との間にあるシール部より日常的に蒸発するが、一〇万キロリットルタンク二一基から蒸発する原油量は、タンク鋼板の温度三〇度Cにおいて、一年間に約一・五トン(白色の側板)という研究発表があり、沖縄の強い日射しのもとでは、タンク鋼板はたちまちに四〇度Cを越え、場合によっては六〇度Cにいたるから、蒸発量は、それぞれ二倍、三倍と急激に増加すると予想される。つぎにタンク内の原油を出荷したあと、タンク側板内側の壁に付着した原油が大量に蒸発する。その量は、一〇万キロリットルタンク一基では、一回の払出し時に一八・六キログラムになるといわれている。更に外航タンカーであれば、バラスト積載時に、内航タンカーでは原油出荷時において、タンカーの(ベント)通気孔部から大量の原油が蒸発する。その量は、資源エネルギー庁の資料によれば、内航タンカー五万トンであれば、出荷時に六トン、一五万トンであれば、何と一八トンにものぼる。更にタンクの点検・修理の際や、タンクローリー、排水処理施設、ポンプ、バルブ等から原油の蒸発が起こる。

右のようにして蒸発した原油は、まず第一に爆発・火災の原因となる。蒸発した原油は、第二に不飽和炭化水素と硫黄化合物のメルカブタン類、サルファイド類を含むために悪臭を放ち、第三に、硫化水素、ベンゼン、キシレン、トルエンをはじめとする有毒物質を多く含み、呼吸器、胃腸、粘膜、皮膚をおかし、死亡に至らせることもある。第四に、蒸発した原油に含まれる炭化水素、硫化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物等が、大気中で紫外線と光化学反応を起こし、光化学スモッグを発生させることである。

以上のように原油は蒸発し易く、且つ蒸発した原油は極めて有害であるが、原油の蒸発を完全に防止することは技術的に困難である。また、仮りに原油の蒸発量を技術的に押えたとしても、本件CTSの規模は巨大で、取扱う原油が大量であるため、蒸発する原油の絶対量は莫大になる以上、右のような危険を防ぐことはできない。

八  本件CTS設置予定地の地理的歴史的特質

1  本件CTS設置予定地は、前述のように沖縄本島中部東海岸に位置する平安座島上の土地及び同島と宮城島間の埋立地である。これを取り巻く金武湾、与勝海上の一連の海域には、与勝半島が鋭くつき出し、与那城村の右平安座島及び宮城島のほか、同村の藪地島、伊計島と、勝連村の浜比嘉島、浮原島、津堅島が点在している。この海域は、太平洋に面して、伊計島~浮原島~津堅島~久高島に連なるサンゴ礁が発達し、海水の透明度が高く、古代から美しい自然の景観とともに、サンゴをはじめとする豊富な海藻類、魚類を付近住民にもたらしてきたもので、昭和四〇年一〇月一日には琉球政府立与勝海上公園に指定された。そればかりか、この付近には勝連城跡をはじめとする貴重な文化遺産も多数存する。

2  ところが、琉球政府は昭和四二年頃から金武湾を一大工業地域化する構想の下に、外資導入政策を採用し、更に本土復帰を間近に控えた頃に沖縄長期経済開発計画が策定され、その結果、世界的アルミ独占企業といわれるアルコアやアラビア石油株式会社、沖縄アルミ株式会社、そして本件CTSのための埋立をなした沖縄三菱開発株式会社等に外資免許が与えられた。沖縄長期経済開発計画は本土復帰後、新全総第八独立ブロックとしての沖縄振興開発計画へ引き継がれている。他方、これと平行して、琉球政府は、本土復帰直前の昭和四七年四月一八日、与勝海上公園の指定を解除した。解除理由は、既に石油企業が進出して自然公園としての価値を喪失したということであろうが、実際には海上公園として指定されていることが、本件CTSを含めた金武湾開発構想を推進するのに障害となるからであった。

右のような状況を背景として、ガルフ社が昭和四五年、石油精製事業のために平安座島と屋慶名を結ぶ海中道路を建設し、また昭和四七年には、公有水面埋立法三条、四条所定の漁業権者の同意及び地元市町村に対する意見聴取手続を欠くという重大且つ明白な瑕疵がある違法な埋立免許に基づき、申請外沖縄三菱開発株式会社が、今日債務者石油基地による本件CTS設置予定地となっている六四万坪の海面を不法に埋め立てたのである。

3  以上のように、本件CTS設置予定地周辺は、従来から債権者らを含む付近住民が、好漁場及び美しい自然環境地域としてこれを享受してきたのであり、債務者らが突如ここに本件CTSを設置しようとしているのである。

そして、前述の既存の石油企業により、既に悪臭をはじめ、タンカー事故、バルブ操作ミスによる油もれ、バラスト水排出による海洋汚染、海底送油管からの漏油等さまざまな公害が発生している。このような公害並びに油流出事故の際に大量に使用されている毒性の強い油処理剤や前記埋立等の影響のため、債権者らの生活環境、漁民の豊かな漁場は既に相当破壊されている。

九  石油備蓄政策及び本件CTS設置による経済効果について

1  本件CTSの建設は、石油備蓄法に依拠する国の政策に基づくものである。この石油備蓄政策はかなり以前から推進されていたが、いわゆる石油ショック以後飛躍的に強化され、現在では、石油備蓄法に定める九〇日備蓄を達成するため一九八〇年(昭和五五年)度初めまでに原油量二六二四万キロリットル、一〇万キロリットルタンク三二九基、土地一六二〇ヘクタール、資金一兆五〇〇〇億円が、新たに必要とされているのである。(年々消費量を増大させることを前提とした数値である。)

2  しかし本件CTS設置の背景にある右石油備蓄政策は、その有意義性に関して左のような疑問点を有する。

日本のエネルギー政策は、我が国の戦後の急速な高度経済成長に伴ない、昭和三五年を境に石炭から低廉で使い易い石油へ転換され、その後政府の安易な中小炭坑切捨政策も手伝い、日本のエネルギー市場は、石油への全面依存体制にまで発展した。ところが、世界の石油需給構造は早ければ一九八〇年代には、新油田開発等によっても供給が追いつかないであろうという状態にまで至っている。このように石油エネルギー多消費に立脚した経済成長を持続しようとすることは、近い将来に不可能となるわけであるから、九〇日備蓄の強行は、政策的に有効性を欠くといわざるを得ない。更に忘れてならないのは、備蓄日数を何日か増やしても、文字通り石油危機が発生した場合は、何の役にも立たず、数年分の備蓄のみ、これに耐え得るということであり、単純に考えても、九〇日備蓄は有効な政策とはいえない。

第二に債務者らはヨーロッパ諸国にみられる備蓄対策を日本の備蓄水準と比較して、前者がはるかに高水準にあると主張するが、日本は石油多消費国であり、その石油輸入量が世界総輸出中に占める割合は一八パーセントにも昇り、日本の九〇日分は西独・仏の二〇〇日分、英国、伊の二五〇日分に相当するのである。したがって、問題とすべきなのは、大量の石油消費に立脚する日本の経済構造にあるというべきである。

更に九〇日の備蓄目標は、OECDの下部機関であるI・E・A(国際エネルギー機関)の勧告によるとの説明もあるが、IEAの勧告は産油国の輸出制限といった緊急事態が発生した場合に、消費国間の石油相互融通を確保して消費国の混乱を避けようというものである。したがって国と国とが地続きであり、且つ石油パイプラインが張りめぐらされ、しかも輸送距離の短いヨーロッパ諸国間においてのみ、それなりの役割を果し得るにすぎず、欧米とはるかに離れた極東に位置する日本にとっては同様の効果を期待することはできない。そればかりか、そもそも右勧告は、アラブ諸国の石油資源に対する支配、その供給の計画化という歴史の必然の流れに抗して、日・米・欧工業国が当然の分け前をはるかに越える石油資源を収得しようとする政策の表われにすぎず、合理的な理由に基づくものではない。

3  本件CTS設置の背景にある石油備蓄政策は、右2で述べたように、それ自体有効な政策といえないばかりか、これを実行すれば、以下のように積極的な害悪をもたらすという欠陥を有している。

即ち、石油備蓄政策を実行するには本件CTSの如き石油備蓄基地を大量に建設せねばならず、そのためには海岸沿いの海域を埋め立てることとなり、漁業に多大な損害を与える。殊に二〇〇カイリ漁業専管水域の時代にあっては、沿岸漁業から外洋に活路を見出すことも容易ではない。

更に、右政策は今日の石油多消費型経済構造に立脚したままの経済成長に見合うだけの石油を備蓄しようというものであるから、石油精製・石油化学工業等の巨大化、臨海工業地帯の巨大化をもたらし、公害はとめどもなく激化する。石油が主導した高度経済成長が、これまでに我々にもたらしたものは、毒物を包含する合成洗剤、薬品、食品添加物及び大量商品の浪費という生活様式であるが、石油備蓄政策は、このような現代生活の中に見られる種々の公害を今後も増大させるものである。

4  債務者らは、本件CTS建設が沖縄経済の構造的改善と地元村財政の発展に多大な貢献をすると主張する。しかし、これは、米軍による広大な土地の強奪と軍労働への動員によって沖縄の自立経済の展開を阻害してきた基地依存経済がCTS依存経済に変るだけのことにすぎず、沖縄の自立経済の達成とは全く無縁のものである。

まず、本件CTS建設に伴い雇用・資材購入とその波及的影響が得られるとの主張があるが、そういった影響は、本件CTS完成とともに、消滅するものであり、集中的に実施すれば、海洋博の如く、労賃騰貴を招き、公共及び民間の仕事を混乱させるだけである。つぎに本件CTSの操業に伴う経済効果が主張されているが、現実には警備や草とり程度の雇用しか望めないのである。また造船所の建設が不可能である以上産業構造に与える影響もほとんどない。もっとも本件CTS建設により、地元与那城村は多額の固定資産税収入を得、また、多数の外航船舶が出入するため、特別トン譲与税収入も多額にのぼると予想される。更に不動産取得税、法人事業税、消費税等が県税収入として、沖縄県財政をうるおすほか、固定資産税が一定以上にのぼる場合には県収となるので、CTSの規模によっては沖縄県財政にも影響してくると思われる。しかし、自主財源の豊かな公共団体には地方交付税が少ないので自主財源が多いと言っても一般財源ではその多少は平衡化されてしまうのである。また石油タンクは年々償却され、施設が増設されぬかぎり、固定資産税収入は年々減少していくということも重大である。更に特別トン譲与税の場合も、石油業界の業況により、入港船舶が少なくなるとたちまち減収になるというものなのである。

以上のように、本件CTSが設置されても、雇用はあまり増えず、人口もそれほど増加せず、したがって財政需要もあまり発生せずに、収入(特に固定資産税)だけ増えることになりそうだが、この場合でも公害対策費の増大、償却資産からの固定資産税の減収という問題に早晩直面することになる。税収を維持しようとすれば、施設の新増設を認めざるを得ないところに必然的に追い込まれてしまう。まさに悪循環であり、地域は崩壊に向うことになる。このようにしてCTSは地域の主体性、自主性を奪いとり、地域を企業に隷属化させていくのである。なお、資源エネルギー庁は石炭・石油対策特別会計に新設された石油貯蔵施設等立地対策交付金を関係地方公共団体に交付しようとしているが、この制度は、これまでバラ色の開発効果や財政効果を宣伝してきたことがまやかしの論理であったことを示す何よりの証拠であろう。

一〇  債務者石油基地締結にかかる公害防止協定の限界について

債務者石油基地は与那城村及び沖縄県との間で「公害防止協定」を締結した。しかし、右協定は、金武湾及び与勝海域が豊かな漁業資源であるとともに、債権者らを含む周辺住民に計り知れぬ恩恵を与えつづけてきたという地理的、歴史的特性に対する理解を欠き、それらを最も良く知っている地域住民の意向とは無縁のところで、単に形式上の手続を全うするためにのみ締結されたものであり、一つの死文とも呼ぶべきである。このことは、債務者石油基地が、本件CTS設定の前提となる埋立がもたらした環境破壊、特に埋立に伴う採砂による漁場破壊について、本件と直接関連を有しないものであるとしてその責任に応じようとしない態度をとっていることに既に如実に明らかにされている。

そればかりか、債務者石油基地が沖縄県と締結した「公・災害防止協定書」第七章三三条三項には、「債務者石油基地は、第一項に規定する被害又は苦情が関連企業(海上輸送を行う者を含む)の行為による場合であっても、責任をもって適当な解決に必要な措置を講じなければならない。」と定められており、他方埋立は、当初から本件CTS建設に向う一貫した計画の下に、石油関連用地とする目的をもって、且つ、債務者石油基地の関連企業たる沖縄三菱開発によって遂行されたのであるから、債務者石油基地は、右協定に基づいて埋立に伴なう環境破壊について責任を負うべきである。にもかかわらず、債務者石油基地は、埋立による被害に対しては一切の責任を負わないというのであるから、同債務者は、前掲公・災害防止協定書の存在を無視して、これを空文化するに等しいといわざるを得ない。

一一  三菱石油水島製油所重油流出事故について

1  昭和四九年一二月一八日三菱石油水島製油所において重油流出事故が発生したが、これは、最新鋭の技術で装備されている石油化学コンビナートも危険を有し、公害をもたらすものであることを明らかにした。企業にとっては利潤追求がすべてに優先され、安全性については単に静的な実験室内において現代の科学・技術上有効とされる対策が採られるにすぎず、現実の環境や気象などの具体的条件の下で、構造物が受ける影響を想定して安全対策が行なわれるのではないのが通例であり、ここに大事故を招く基盤が潜んでいる。このことは、右三菱石油株式会社と申請外丸善石油株式会社からなる債務者石油基地が建設しようとしている本件CTSについても例外ではない。

水島事故は、タンク事故に関するこの上ない典型例であり、ほとんどのタンク事故に共通する諸原因を明らかにしてくれるから、以下詳しく触れることにする。

2  事故概要

昭和四九年一二月一八日二〇時四〇分頃、岡山県倉敷市海岸通り四丁目二番地にある三菱石油水島製油所において、T二七〇屋外貯蔵タンク(公称容量五万キロリットル、側板高さ二三・六七メートル、内径五二・三〇二メートル)からC重油(約九〇度C)が約五ないし六メートルの高さから落下しているのをパトロール保安員が発見した。これは、実は重油がアニュラプレート(タンク底板外周部にあり、側板を支えている高張力鋼の板)の亀裂からもれて、基礎の割れめから噴水のように吹き出していたのである。事故の通報を受けた係員は二〇時五〇分頃、直接脱硫装置からの送油をT二七〇タンクからこれに隣接するT二七一タンクへと切換え、次いで、二一時五分頃、T二七〇タンクの重油をT二七一タンクへ、油面高さの差を利用して送油しようと、バルブ操作を行なった。

ところが、二一時六分頃、大音響とともに大量の重油が流出した。これは、送油に伴なうタンク内部の気圧の低下によって外圧との間に気圧差が生じ、その圧力で丸屋根(ドームルーフ)が内側に真一文字に破壊し(バキューム現象)、その衝撃でアニュラプレート及び底板溶接部が脆性破壊したことによるものである。

流出した重油は一六メートルの高さまで噴き上がり、直立階段を基礎ごと押し流し、防油堤(高さ一・五メートル、厚さ一二センチメートル)は長さ七・三メートル、高さ最大一メートルも破壊された。そしてT二七〇タンクの重油約三万七〇〇〇キロリットルが流出した他に、バルブが同タンクに開かれていたT二七一タンクの重油約六〇〇〇キロリットルが逆流しはじめ、外部に流出した。こうして、全部で約四万三〇〇〇キロリットルの重油が流出した。その一部は構内一四万八〇〇〇平方メートルを油びたしにし、残りは海上に流出し、その量はおよそ七五〇〇ないし九五〇〇キロリットルと推定されている。

3  事故原因

右事故は、溶接、直立階段建設及びタンク設計の各ミスと軟弱地盤によってもたらされたものである。

(一) 事故を起こしたタンクは、アニュラプレートの溶接部で破断していたが、通常、この個所の溶接は、二、三回の溶接回数(パス数)で行なわれるのに対して、このタンクでは、六回も溶接されていた。事故タンクのアニュラプレートは、こうした異常なくらいの六パス溶接によって脆化した他、このタンクの溶接は六パス溶接の各ビード(溶接金属)の形状が不ぞろいであったり、その量がまちまちであったりするなど、溶接欠陥が多数発見されている。

(二) この事故のアニュラプレートの破断の位置は、直立階段の位置に一致している。

一般にタンクの階段は、小型タンクには「垂直はしご」、大型タンクには「らせん階段」と決まっているが、ここでは直立階段を用いた。ところが、この直立階段の基礎を設置するために、アニュラプレート直下の砕石リングを除去してしまった上、更に砂による埋め戻しを行なったが、これは不充分にしか行なわれなかった。そのためアニュラプレートを支持するものがなくなってしまった。なお、砕石リングの除去は、直立階段基礎の建設以外に、いわゆる「TAL工法」の使用によっても行なわれた。TAL工法とは、通常のタンク本体建設とは異なり、タンク本体の溶接を屋根から順次下へと行なってゆく工法である。この工法はタンクを空気圧によって持ち上げて行なわれるが、この空気圧をかけるためのパイプ(カルバート)が基礎地盤中を走り、そのため、その部分の基礎が除去された。それゆえ、基礎支持力が著しく弱められ、不等沈下の原因のひとつとなったのである。更にこの工法では、空気圧を封入するためのシール材を用いたが、これをアニュラプレートに溶接する必要があるため、その部分までが、以上の個所に加えて脆化した。

(三) 事故タンクの側板の高さは約二四メートルで、アニュラプレート板厚が一二ミリメートルであったが、消防法改正後はそれぞれ、二二メートル、一六ミリメートルに変えられたのである。この事実は、事故タンク設計段階において、側板の高さとアニュラプレートの板厚が危険なものであったことを示すものである。しかもこのことは水島事故以前に、大型タンクの水張りテスト中に事故を起こした例があったことから既に明らかになっていたのである。また昭和四六年五月一三日、サンフランシスコで開かれたAPI(アメリカ石油学会)において大型タンクの事故の原因を解明し、且つ事故の防止策を考察した報告がなされていた。そればかりか、三菱石油水島製油所の建設に携わった千代田化工建設株式会社と石川島播磨重工業株式会社とによって昭和四八年に日本石油の鹿児島県喜入基地に建設された一五万キロリットルタンク(高さ二二・六メートル、内径一〇〇・一メートル)に関して行なわれた水張り試験において、高さ一三メートル付近の水位で既に、アニュラプレートは半径方向の応力が降伏点を越えることが判明していた。更に二〇メートルの水位になった時、アニュラプレートは側板内側より五センチメートル以内で、降伏点以上の応力がかかっていることも判明していた。これらの事実があったにも拘らず、事故タンクの設計基準には何らの変更も加えられなかったのであり、設計ミスは明らかである。

(四) また軟弱な埋立地の地盤改良のために、三菱石油と千代田化工はサンドドレーン・プレロード工法を用いた。この工法では一般に、プレロードによって少なくとも圧密率八〇パーセント(現在は九〇パーセント)まで地盤を圧密させるが、三菱石油、千代田化工では、タンク重量の約四〇ないし五〇パーセントに相当する盛土でプレロードを行ない、そののち、不足した圧密をタンクの水張りによって補い完了した。つまり、全沈下量の半分をプレロードで、残りの半分を水張りで圧密沈下させたわけである。

(五) そして以上の諸因子が果した役割は次のとおりである。即ち、六パス溶接によってもたらされたアンダーカット等の溶接欠陥がいわば発火点となり、それに直立階段部基礎盛土の支持力の喪失がたちまちこれら溶接欠陥部に降伏点以上の応力を生じさせ、事故後、青黒色破面で示された長さ三・七メートルの初期亀裂となった。もちろん、この初期亀裂の背景に、設計の際、アニュラプレートに降伏点近くの応力がかかるようにして、全く安全率を見積らなかったことや、あるいは地盤がタンク完成後も沈下しないと安定化せず、地盤改良もそれまで完了しないという問題点が事故を加速する原因として存在したことを忘れてはならない。つぎに、初期亀裂部分に貫通が少なくとも一部生じ、重油がわずかずつ基礎盛土中に浸み出し始め、それが支持力の喪失に輪をかけ、油の出し入れによる繰返し、応力が変動することが疲労による亀裂の拡大となった。重油中の酸素による腐食もこの亀裂の拡大には「応力腐食」という形で寄与したことも見逃がせない。こうして初期亀裂が拡大し、約八メートルの赤褐色破面で示される、事故の第二段階が終了する。このときには、貫通亀裂から重油の浸み出しがかなりあり、一部は基礎盛土の表面より噴出を開始したのである。これ以前に重油の噴出がなかったのは、たとえ貫通亀裂を生じても、多少とも地盤の支持力によって、傷口がパックリあくのが押えられていたためであろう。基礎盛土は重油びたしになっていつくずれてもおかしくない状況だった。そして係員のバルブ操作による重油の抜き出しによって最終破断に至ったものである。なお事故当時、T二七〇タンクからT二七一タンクへと、重油の移動がなめらかに行なわれれば、重油は構内に流出したにとどまったかもしれないが、それが行なわれなかったのは、タンク内へ外の空気が流れこまなかったことが原因である。すなわち、ベント(空気吸入口)が目づまりしていたことを意味する。ベントの目づまりが外気の流れを封じ、重油の移動によってタンク内をバキューム(真空)状態にし、それが丸屋根を二つに割る原因となった。このベントが十分な吸気特性を発揮できなかった保守管理の不備もまた、事故をあれほど大規模なものにしたひとつの原因である。

4  事故による環境悪化

この重油流出によって、東瀬戸内海一帯は広域にわたり汚染され、短期的な漁業被害に限っても、岡山、兵庫、徳島、香川四県の養殖業及び一般漁業の被害総額は、実に約一五〇億円にのぼるといわれている。

更に長期的被害については、未回収の重油と大量に使用された油処理剤による後遺症が大きく、これら有毒物質によってプランクトン、魚卵、稚魚などは強い影響を受け、タイ、エビなどの漁獲高は激減した。更にアサリ、ハマグリなどの貝類も大量に死滅している。こうした生態系の破壊によって赤潮が発生し、しかも例年よりもその時期が早くなり、回数も増え、質も悪化している。事故後、この赤潮の発生によって、養殖ハマチや天然魚の被害が現われており、現在でも流出重油は依然として瀬戸内海に残存しているのである。

そればかりか、流出重油の回収作業にあたった漁民達が、様々な形で健康をそこねている。

一二  保全の必要性

以上三ないし一一で述べたとおり、債務者らの本件CTS建設計画が実行されると、石油流出事故やタンクの爆発・火災の危険はもとよりのこと、金武湾の油汚染にも一層の拍車がかけられることは、明白である。加えて、わが物顔で往来する大小のタンカーはその数を増し、そのため、漁船は常に衝突の危険にさらされるとともに、漁業環境がこれまで以上に狭められることは避けられようもない。よって本件工事を事前に差止める必要がある。

(申請理由に対する債務者石油基地の認否及び同債務者の主張)

一  申請理由一1の事実は知らない。同2の事実中、債務者石油基地に関する部分は、図(四)、(五)の記載内容を除いて認める。図(四)、(五)の記載内容は否認する。

なお、本件タンクは世界で広く用いられているタンクに関する基進であるAPIスタンダード六五〇“Welded Steel Tanks for Oil Storage”及びわが国のJISB八五〇一「鋼製石油貯そうの構造」に準拠し、且つ消防法規ならびに「屋外タンク貯蔵所の規制に関する運用規準等について」(昭和五一年一月一六日消防予第四号)及び「屋外タンク貯蔵所の保安点検等に関する基準について」(昭和五〇年五月二〇日消防予第五二号)に適合するよう計画し建設されるものである。その主な仕様は次のとおりである。

タンク型式 浮屋根式タンク

直径 八〇メートル

高さ 二二メートル

側板厚 三五及び四三ミリメートル(最下段)~一一ミリメートル(最上段)

底板厚 アニュラプレート二〇ミリメートル・底板一二ミリメートル

使用主鋼材 溶接構造用高張力鋼板WES一三五 HW五〇及び一般構造用圧延鋼材JISG三一〇一 SS四一

二  同二前段の主張は争う。

いやしくも、ある権利に基づいて差止請求が認められるためには、その権利とあいいれない他の権利を排除しうる排他的効力が認められていなければならないはずである。しかし、ある権利に排他性を与えるかどうか、また、妨害排除、妨害予防の機能を認めるかどうかは、わが国の法制度の下においては、本来、立法上明示されるべきものであり、ただ例外的に判例によって補充されるものがあるにすぎない。したがって、法律上認められる権利についてさえ、そのすべてのものが侵害に対する妨害排除ないし予防請求権を帯有しているわけではないのである。

ところで、債権者らのいう人格権、環境権なるものは、そもそも、実定法上明文の規定を欠くことはいうまでもなく、また、その権利性ないし性格、外延について確立されたものがあるわけではなく、その侵害を排除する排他的な権能の有無を定めた規定は存在しない。

このように、被保全権利に関する債権者らの主張は、そもそも基本的部分において不当なものであるが、更に、その内容において、将来の妨害予防を求める要件を欠き、到底差止請求権を認める余地がない。すなわち、仮に債権者らの主張する権利が存在するとの立場をとった場合においても、差止請求権の行使については、一般論としてその主張の合理性、損害発生の蓋然性、対象行為の性格、内容等を検討し、あらかじめその行為を差し止めるまでの急迫な必要性がある場合に限り認められるにすぎないのであるが、本件建設工事については、後記のとおり、施工上も事後の保全措置においても十分な安全防災対策がとられており、損害発生の具体的危険性ないし蓋然性はきわめて低く、また、万一不慮の事態が発生した場合に関する防災対策についても十分な配慮がなされているのであるから、法律上、事前の差止を認めうる場合には該当せず、更に、本件建設工事が、後記のとおり石油備蓄増強という国の政策的要請に応ずるためのものであるという公共的性格を考えれば、なおさらのことといわざるをえない。

なお、被害発生の可能性は、債権者らの居住地と本件CTSとの地理的関係及び後記のような安全対策を考慮すれば、当然消極に解せざるをえないが、債権者らの中には、具志川市、沖縄市在住者まで含まれていることを指摘しておく。

三  同三は争う。

債務者石油基地は昭和五一年二月千代田化工建設株式会社に依頼して本件CTSタンク敷地の地盤調査を行なった。千代田化工は、計画されている二一基のタンクの建設予定地について、各一基当り中心点に一本、周囲に八本の合計一八九本のボーリング調査を行なったが、このうち八本については、この埋立地の下層にある島尻粘土層の状況を見るため深度五〇メートルまでの調査をした。標準貫入試験値並びにボーリング調査試料について行なった土の単位体積重量測定、土粒子の比重試験、含水比測定、粒度分析試験、液性限界試験、塑性限界試験等の物理試験及び一軸圧縮試験、一面せん断試験、三軸圧縮試験、圧密試験等の力学試験の結果によると、島尻粘土層の極限支持力は、一平方メートル当り六九トンであり、本件タンク基礎の設計荷重一平方メートル当り二二トンに対して十分な支持力を有しており、更に島尻粘土層にいたるまでの粘土層、砂層からなる埋立層及び旧海底下の一部に存在する粘土層については、地盤改良すれば、その敷地上に置くタンクの基礎としてはなんらの危険もないことが判明した。

地盤改良は、千代田化工が特許工法を有するパックドレーン・プレロード工法により、前述の粘土層及び砂層に砂の杭を打ち込み、その上に浚渫土を上積みすることにより圧力を加え粘土層及び砂層から水分を抜きとり、圧密を促進させることによって該部分の地盤を安定させ、支持力を増強させ、沈下を防ぐ。

右の地盤改良によって、地表から前述の島尻粘土層に達するまでの粘土層及び砂層の支持力をふやし、沈下を防止し、前述の設計荷重一平方メートル当り二二トンの少なくとも一・五倍以上の安全率を保持することができる。

なお、同三5後段の事実中、債務者石油基地が建設しようとするタンクの基礎は、アニュラプレート直下に砕石リングを敷くほか海底浚渫土を用いる予定であることは認めるが、その余の事実は争う。十分な調査と検査の結果によれば、本基礎の安全性か十分に確認されている。

四1  同四1の事実中原油の引火点が0°C以下であること、蒸気の比重が空気より大であること、爆発限界の下限が低いこと、比重が水より軽いことは認めるが、その余の事実は争う。債務者石油基地が建設を計画している原油貯蔵タンクは、浮屋根式のもので、タンク内の油面の約九九パーセントは浮屋根に接しているから、ガスが蒸発することは殆んどないし、残りの約一パーセントの浮屋根周辺部分には柔軟性に富むウレタンフォームを耐油性ゴムで巻いたソフトシールを設け、このソフトシールはタンク側壁に密着するので、屋根部分から大気中に油蒸気が放出されることも殆んどない。また、右設置場所の気象条件からみてガスが防油堤の下側に溜まることは考えられないし、着火源となる高温体は存しない。定期検査等のためにタンクを空にするときは、ガスを除去するから空タンクが爆発する危険性もない。

2  同2について

CTS設備自体の警報設備及び誤操作防止機能として、

①払い出し導管に過流量防止のための流量調節機能、②タンク液面が規定以上に上がった場合に計器室内に警報を発する装置、③各主導管に設けられている主弁類はすべて遠隔操作ができるような装置、④ポンプ、弁類の誤操作防止システムを取りいれ、事故対策に万全を期している。

3  同3、4の主張は争う。

4  同5の事実中、沖縄が本土より高温多湿の気象条件にあることは認めるが、その余は争う。側板については、塗料を厳選し、適宜塗替えを行なって腐食を防ぎ、底板については地下水面より三メートル以上高くしてその底部をアスファルトで覆って腐食を防止するよう配慮している。大協石油の火災は、灯油を硫化水素の吸収に使ったため発生したという特殊な事例であり、原油貯蔵タンクにおいては考えられないところである。

5  同6について

本件CTSタンクの使用材質は、溶接構造用高張力鋼板HW五〇及び一般構造用圧延鋼材SS四一である。過去における那覇市の最低記録気温が四・九度C(明治四五年二月二〇日)であり、またタンクの使用条件が常温であるもとにおいては、JISB八五〇一に照らしてみても、脆性破壊を問題とする余地はない。また側板とアニュラプレートの溶接部を含む底板溶接部全線にわたって前記「屋外タンク貯蔵所の保安点検等に関する基準」に基づき水張試験の前後に二回の磁粉探傷試験を行ない、割れ等の溶接欠陥のないことが確認される。

6  同8について

本件タンクは風速毎秒八〇メートルに十分耐えられるよう設計されている。これは那覇市における過去の台風時における瞬間最大風速毎秒七三・六メートル(昭和三一年九月八日)を考慮したものである。なお、本件CTSにおいては多数のタンクが併立して建設される計画であるため、タンクに付加される風圧に対するタンク群の相乗効果についてもモデルを用いて風洞実験を行なったが、タンクの耐風性能については問題はなかった。毎秒八〇メートルの風は、一平方メートル当り約四〇〇キログラムの風圧に達するが、それでも本件CTSのような大型タンクは、滑ったり、転倒したりすることはなく、また、側板の座屈についてみると、満杯の場合には風の圧力よりも貯蔵された原油が外側へ押す力の方が強いから全く問題とならないし、タンクが空の場合においても、頂部より七メートル下までの間に四段のウィンド・ガーダーを取り付けることによって、前述の風圧に耐えるように計画されている。

本件CTSは降雨量一時間一〇〇ミリメートルを想定して設計している。那覇市における過去の一時間当りの最高雨量九二・六ミリメートル(明治四三年八月八日)を考慮したものである。浮屋根上に降った雨は、浮屋根からタンクの中をとおって側板に抜ける鋼管製雨水排水機構によりタンク外へ排出される。鋼管製排水機構の鋼管は、鋼製、回転自在継手でつながれており、浮屋根の上昇下降に十分追随できるようになっている。また、この機構は、保守管理を行なうことにより容易に閉塞することはないが、念を入れて二系統に分割されている。排水能力は浮屋根が最も低い位置にあっても、設計降雨量の雨水を排水できるよう設計されており、液位四・六メートル以上では、一系統の雨水排水機構のみでも十分設計降雨量相当の雨水を排水できる。なお浮屋根は浮屋根上に少なくとも二五〇ミリメートルに相当する水が滞留しても沈下しないよう設計される(後記自治省告示四条の二十二第一号ハ参照)ので、那覇市における過去一日当りの最高雨量四六九ミリメートル(昭和三四年一〇月一六日)を考え合わせると、四・六メートル以下の液位の場合に一系統が閉塞したとしても、浮屋根沈没の危険性はない。また、タンクヤード内の雨水が直接海に放流されることはない。

7  同9について

本件CTSタンクは、設計水平震度〇・三で計画されている。もともと沖縄地方は大地震が起こらない地域であり、現に昭和五二年二月一日自治省告示第二二号で改正された「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示」(昭和四九年五月一日自治省告示第九九号)四条の二十(地震の影響)でも地域別補正係数の最も小さいC地域に区分されている。右告示によって計算すると、水平震度は〇・一六八である。

五1  同五1について

一六ノットで航行中の満載大型タンカーが二ノットに減速するまでの所要時分は、一三分ないし一五分であり、船首を九〇度回転するには九〇〇メートル余で足り、五分余で一八〇度の回頭も可能である。また巨大タンカーが一二〇〇メートルの間隔で行き違う場合にも、海上衝突予防法に従って舵角三五度で右転すれば十分安全に避けることができる。

2  同2について

金武湾は湾口が約三〇〇〇メートルと広く、潮流は〇・五ノット以下で弱く、霧も殆んど発生しない自然の良港である。また、航路及びシーバース側傍の水深とも三三メートル以上で、大型タンカーにとって十分な余裕水深があり、旋回用水域(ターニングベースン)はシーバースの各前面にあって、両バースとも大型タンカーの長さの二倍(六〇〇メートル)以上を確保でき、錨泊地はシーバースの北西方に港長が指定しており、大型タンカー三隻が同時に錨泊できるのに十分な広さがある。金武湾に出入港する船舶は多くはないが、この湾を利用する同業他社と一元化して原油タンカーの入出港の管理を行なうから、湾内航行の安全性は確保されている。タンカーは金武湾口に達するまでに、入港用意のため徐々に減速し、湾口ではバーシングマスターが乗船できるような三ないし四ノット以下に減速し、タグボートの援助を得て慎重な操船を行なうが、入出港の管理体制については、つぎのような対策を実施する。

入港前タンカーに荷役、港内情勢、気象、海象などの諸情報を密接に通報し、事故防止の万全をはかる。

金武湾口伊計島北東約二・五浬の地点でバーシングマスターが乗船し、操船援助に当るとともに、所定のオイルフェンス、油吸着材を備えたタグボート一隻が航路を先導する。なお初めて入港する船に対しては、水路、気象、海象、施設の状況及び防災対策を含む詳細な情報を提供する。

タンカーがシーバースに接近すると、タグボート二ないし六隻が近づき曳索をとり、バーシングマスターの指揮の下に操船援助に当る。着桟に際しては、シーバース前面においてタンカーは、完全に停止した後、タグボートにより静かにシーバースに圧着させる方法をとるが、接岸速度は毎秒五センチメートル以下を目標とし、このためタンカー、タグボートシーバース相互間に無線機による連絡網を確立し、シーバースから潮流計、風向風速計、着桟速度計などの示度を刻々知らせる。

離桟出港は、着桟時と同様に、バーシングマスター及び所要のタグボートにより操船援助を行ない安全に出港させる。

着桟可能の気象条件は、平均風速毎秒一五メートル又は波高一メートルとする。台風接近時あるいは季節風が強く吹くときのように、着桟作業中に着桟許容限界を越える天候が予想されるときは、事前に協議の上着桟中止、延期などの措置を決めることとする。荷役中平均風速が毎秒一五メートルに達したときは、本船と協議し、タグボートの配備、荷役中断、ローディングアーム切り離しなどの措置をとる。避泊、離桟については港長からの勧告に従い、船長と協議して決定する。

3  同3について

荷役に際しては、次のように安全対策が採られる。

(一)シーバースの管理者は、荷役開始前に本船航海士と所定の安全点検を行ない、不備な点があれば、改善されるまでは荷役を開始しない。

(二)シーバース管理者は、所定の作業標準に従って安全確実に荷役作業を進行させる。

(三)本船着桟中、付近海面における火気使用を厳禁し、他船が接近しないよう監視するとともに、船用品積込などのための接舷荷役については安全のため厳しい制限をつける。荷役現場には関係者以外の立入りを禁止し、本船に対し常に最良の繋留状態を保ち、また防消火設備をいつでも使用できるよう準備しておくことを指示する。

六1  同六1の事実は否認する。前述のように債務者石油基地の建設する浮屋根式タンクは、浮屋根がタンクの油面を覆っているからタンク全面が火災となることはないし、防油堤内が全面的に火災になる可能性は稀有のことであり、万が一火災になってもタンクが破壊することはありえない。また、債務者石油基地は、後述するように、陸上からの排水経路については十分の安全対策をとっているほか、シーバースには浮沈式オイルフェンスを設定し、荷役中は常時タンカーの周囲を囲んで展張しており、また悪天候時には荷役を中止するから大量の油が海面に流出することはない。

2  同2の事実中タンク火災によりボイルオーバー、スロップオーバーという現象が起こることが稀れにあることは認めるが、その余の事実は否認する。債務者石油基地では、ハロゲン化物自動消火装置及び各タンクにそれぞれ一四個の固定式泡放出口を有する遠隔操作による泡消火設備によって、短時間内に、タンク火災を消火できるから、ボイルオーバー、スロップオーバーという現象が起こることはないし、防油堤内の火災については、防油堤の周囲六〇メートルごとに泡消火栓を設けており、また、別に必要に応じ泡消火栓としても使用できる水消火栓をも設け、早期に消火することとしている。

ハロゲン化物消火設備とは、ハロゲン化物である蒸発しやすい液体であるハロン二四〇二(二臭化四弗化エタン)による燃焼抑制作用を利用したものであるが、燃焼抑制作用のみでなく、燃焼反応による化学的抑制作用が強く、方式が簡単なだけに信頼性が高い。万一火災が発生したときは、閉鎖型のヘッドが火炎熱により自動的に開放され、あらかじめ封入されている消火に有効な不活性の窒素ガス及びこれに引き続くハロン二四〇二が放出され、消火の目的を達する。閉鎖型ヘッドは、シール部と雨水除けとの中間円周に沿って二・七五メートル間隔に設けられ、薬液タンクは浮屋根上に二個設け、一個がタンクの半円周分を賄うに十分な量を貯蔵している。

泡消火設備とは、可水溶性動物タン白質を主体とした濃厚な溶液(泡原液という。)と水とを一定比率に混合した水溶液を発泡器より放出する際、ジェット作用によって空気と混合して泡に変るが、この泡が燃焼液面と空気との接触を遮断し、消火を行なうものである。この設備は泡原液比例混合装置(一定比率の混合液を作るための装置)と送液管(タンクヤード内は埋設配管)及び発泡器からなる。この装置は、発泡すべきタンクの番号を付したボタンを押すことにより泡原液ポンプの起動から弁の開閉、混合装置から発泡すべきタンクまでの送液管の管路にいたるまでの一連の動作が行なわれ、消火に十分な泡を放出するまで自動的に作動する。タンク一基に設置される発泡器は一四個で、円周上に等分の位置に配置され、放出泡は、側板内壁を伝わり、側板と堰板とにより形成する環状部分に流動し、泡により空気と遮断する。右のタンク本体に配置されている泡消火設備のほかに、タンクヤード内の火災に対して防油堤沿いに六〇メートルごとに泡消火栓が設置され、泡を放出して消火する。更に、各防油堤の外側に六〇メートルごとに水消火栓が設けられ、火災発生時には隣接タンクを冷却するようになっているが、必要に応じ貯蔵泡原液を利用して、これを泡消火栓として使用することも可能である。

3  同3の事実中与那城村内に既に債務者ターミナルと申請外沖縄石油精製株式会社が操業していること、同村は、勝連村との間で与勝消防衛生組合を設置し、与勝消防本部を昭和五一年一〇月一日付で発足させたこと、同本部は、消防ポンプ車四台、指令車一台、ジープ一台、救急車二台等を有しているが、化学消防車を有していないことは認める。その余は争う。

消防法上設置が義務づけられている警報設備は①消防機関に報知ができる電話、②非常ベル装置、③拡声装置、④警鐘のうちの一種類以上であるが、本件CTSにおいては、①消防機関に報告できる電話機を構内の要所に設置し、②サイレン吹鳴装置の設置、③一斉指令が可能な構内拡声装置の設置、④火災報知機を要所に配置し、受信盤は中央計器室に設け、発信個所が即刻判るようにするとともに、⑤操作員、警ら員相互間及び中央計器室への連絡には携帯無線機を用いることとしている。

つぎに、本件CTSでは、二ないし四基のタンクごとに防油堤をもって囲い、万一油がタンクから排出されても、堤外にでないようにする。防油堤は底辺六・〇二五メートル(一部は六・四七五メートル)、上辺一メートル、高さ一・八五メートル(一部は二・一五メートル)の盛土の表面をタンク側に面してはアスファルトモルタルで覆い、一防油堤の容量は、タンク一基の容量の一一〇パーセントであって、この容量はタンクの基礎部分の体積等を控除した正味容量である。したがって、タンク一基分の油が全量排出されても、十分防油堤内に留めることができる。防油堤内は、仕切堤によって各タンク一基ごとに区分されており、仕切堤は、底辺三メートル、上辺一メートル、高さ一メートルの盛土で表面はアスファルトモルタルで覆っている。したがってある程度の油が排出されても、そのタンク付近のみに留めることができる。更に、防油堤の外側に構内の防油堤のすべてを囲む流出油防止堤を設けて、二重に油の流出の防止を図っている。この流出油防止堤は、底辺二・四四メートル、上辺一メートル、高さ〇・六メートルの盛土で、その容量は、容量が最も大きい防油堤の容量以上である。

更に、左のような海上防災設備と防災対策を用意している。

(一)シーバース上に泡モニターノズル、ウォーターカーテンノズル、消火栓ノズルその他とこれらに必要な泡原液、消火ポンプなどを設置するとともに、タグボート、消防艇にも十分な防災能力を保有させる。

(二)油処理剤、吸着材、オイルフェンスなどの資機材は、最高級のものを所要量保有するが、シーバースの周辺には、浮沈式オイルフェンスを設置し、タンカーの着桟中これを浮上させてその全周を囲み、油の流出に備える。万一油処理剤を使用する場合には、現在許容されている極めて毒性の少ないものを使用する。

(三)タンカー着桟中は、所要の回収能力、消防能力を有する油回収船一隻をシーバースに配備し、常時出動できるよう待機させる。

(四)荷役開始に当っては、シーバース管理者、作業員、本船乗組員らが監視を行ない、荷役中もこれを続行し、漏油事故防止に努め、海上からは配備中のタグボート等の当直員に監視させる。

七1  同七1について

タンカーが揚荷終了後ダーティバラストの注水を開始する際パイプ内の残油が船底弁から逆流する事故が問題となるが、本件CTSにおいては二次タンカー(国内への積み出し用)のダーティバラストをすべて陸上バラストタンクに受け入れ、油と水とを分離し油分を除去した後、このバラスト水を一次タンカー(国外からの受け入れ用)のバラスト水として供給する方式をとるので、一、二次タンカーとも船底弁を開ける必要はなく、ここから漏油することはない。

また、前述の荷役作業の監視の強化、陸上からの出荷量のコンピューターコントロール、タンカーの制御盤上の警報装置の活用などによりタンクハッチ等よりのオーバーフローの事故を防止する。更に、荷役中は、タンカーのデッキスカッパーホールを閉塞し、船側排水弁の閉鎖を確認する。

タンカー側油配管の先端であるタンカーマニホールドとシーバース上の油配管との接続は、配管と同等の強度をもつ鋼製のローディングアームによりなされるが、このローディングアームは、タンカーの上下、前後、左右の動きにも追従する。荷役作業中は、タンカー及びシーバース上には常時監視員を配置し、ポンプの緊急停止、ローディングアームの元弁の緊急閉止はその場で同時に可能である。また万一の漏油についてもタンカー上にはマニホールド部に油受け槽を、シーバース上にはローディングアーム部廻りに囲板を設けてあり、海面への漏油はない。

また、原油から分離され、タンクの底にたまった水(ドレン)をタンクから排出させる場合には、専用の導管で防油堤外に設ける溜めますに導く。他方防油堤内に降った雨水は、タンクの屋根上に降った雨水とともに、導管で堤外の溜めますに導く。防油堤の内外を隔離するため上記の導管には堤外で溜めますに流入する直前の個所に弁を設ける。弁の開閉状況は容易に確認できるようにするが、通常は閉鎖しておき、排水をする都度開くこととなっている。この溜めますの上端は、防油堤の高さになっており、万一弁を閉め忘れ、開の状態となっていても、防油堤内の流体が溢留することはない。溜めますに溜められた含油水は、ポンプによってタンクに送られ油分離槽を経由し、排水処理設備によって処理された後に海に放流されるが、放流される水には最高一PPmの油分しか含有されていない。

2  同2の事実は争う。前述のように、本件タンクは浮屋根式で且つシールされているものであるから、ガスの蒸発は殆んどない。また水島事故の際重油を扱った漁民にも後遺症は出ていない。

八1  同八1の事実中、本件CTS設置予定地を取り巻く金武湾与勝海上の一連の海域には与勝半島がつき出し、与那城村の藪地島、平安座島、宮城島、伊計島と勝連村の浜比嘉島、浮原島、津堅島が点在し、昭和四〇年一〇月一日琉球政府立与勝海上公園に指定されたこと、は認めるが、その余の事実は争う。

2  同2の事実中、琉球政府の屋良主席時代に沖縄長期開発計画が策定され、沖縄三菱開発株式会社に外資免許が与えられたこと、沖縄の復帰後右沖縄長期経済開発計画は、新全国総合開発計画第八独立ブロックとしての沖縄振興開発計画に引き継がれたこと、琉球政府が昭和四七年四月一八日前記海上公園の指定を解除したこと、昭和四九年本件CTSのために六四万坪が埋め立てられたこと、昭和四五年ガルフ社が平安座と屋慶名間を結ぶ海中道路を造成したことは認めるが、その余の事実は争う。

琉球政府が海上公園の指定を解除したのは、沖縄経済の全体の見地から企業誘致の必要性を考慮して再調査を行ない、与勝のサンゴ礁が小規模であることから与那城、勝連両村の意見を聴取したうえでしたものである。また、債権者らのなかから沖縄県知事を被告として提起した公有水面埋立免許の無効確認を求める訴は、昭和五〇年一〇月四日御庁で却下され、右判決は確定している。

3  同3の事実は争う。

債権者ら主張の事故の多くは、石油精製事業に伴うものであるが、債務者石油基地は、石油精製事業を行なうものではない。また、油処理剤は、万一使用するとしても、現在許容されているものは、毒性が極めて低く、債権者らの主張するように油処理剤を不必要に使用することはありえない。

4  本件CTS建設の経緯、適地性等について

(一) 与那城村長は、昭和四三年、同村平安座島と宮城島との間の公有水面を埋め立てることにより離島である宮城島を本島の地続きとして連絡を容易にし、あわせて地域発展のために埋立地へ産業を誘致することを計画した。そして、同村長は、昭和四四年、三菱商事株式会社に事業の協力を依頼した。そこで、三菱商事は三菱グループ各社にはかり、同グループは昭和四五年沖縄調査団を現地に派遣し、新しい埋立地にどのような企業を誘致することが、地元の自然を破壊せずに、村の発展ひいては沖縄県の将来のために寄与しうるかを慎重に調査した。その結果、三菱グループは、昭和四六年、CTSが右埋立地にもっとも適合しているとの結論に達した。そこで、村は、CTS基地を前提とする埋立事業を三菱開発に委託することとし、同年五月一五日、前記公有水面(約六四万坪)について埋立免許の申請を行ない、三菱商事と三菱開発は同月一九日、当時の琉球政府に現地法人を設立するため外資導入の申請を行なった。

村の三菱開発に対する埋立事業の委託については、同年一〇月二日同村議会による全会一致の承認があった。

(二) 昭和四七年三月四日外資導入の免許が交付され、その結果沖縄三菱開発が設立されたが、埋立免許については、琉球政府の行政指導により、申請人を村から沖縄三菱開発に変更し、同年五月九日同社に免許が交付された。

(三) 昭和四七年一〇月一五日、沖縄三菱開発による埋立工事が着工となり、翌四八年一月二七日、護岸敷が宮城島に到達し、本島との間が事実上陸続きとなり、昭和四九年四月に埋立工事は完了し、五月二〇日県に対し公有水面埋立竣工認可の申請をし、昭和五〇年一〇月一一日これが認可された。この土地は、その後沖縄三菱開発から三菱石油及び丸善石油に知事の許可を得て譲渡され、債務者石油基地は、昭和五一年五月一〇日前記三菱石油及び丸善石油から知事の許可を得て賃借した。

(四) 一方、CTSの建設、運営会社となる債務者石油基地が、昭和四八年四月二七日設立された。また、同年五月一九日、同事業に必要なシーバース及び海底管設置のための水域占用許可が県から与えられた。このシーバース本体は、同年一〇月一六日に着工し、昭和四九年一二月三一日に完成した。昭和五一年三月三〇日から四月一五日にかけて債務者石油基地は、沖縄県知事に対し、屋外タンク貯蔵所及び移送取扱所の設置許可の申請をし、四月二三日沖縄県県土保全条例に基づき県に対する開発行為の事前協議申出書を与那城村に提出し、同村はこれに同意する旨の意見書を付して県に送付し、同年五月八日承認されたので、更に本申請手続をすすめ、同月一〇日同県土保全条例に基づく開発許可申請書を与那城村へ提出し、同村は再びこれに同意する旨の意見書を付して県に送付し、県は開発審査会の意見を聴したうえ、同年六月二二日県知事は、債務者石油基地に対し、消防法に基づく屋外タンク貯蔵所(原油タンク二一基)、移送取扱所、一般取扱所の設置の許可並びに都市計画法及び沖縄県県土保全条例に基づく開発行為の許可を、工事の着手に際しあらかじめ債務者石油基地が沖縄県及び与那城村との間において公、災害防止に関する協定を締結すること等の条件を付して、与えた。そこで債務者石油基地は与那城村及び沖縄県と協議を重ねた結果、村との間においては、同年一二月二七日建設中の公害防止に関して「CTS建設にかかる公害防止協定」を、また、操業開始後の公害防止に関して「公害防止協定」をそれぞれ締結し、更に、債務者石油基地は、沖縄県との間で昭和五二年三月一〇日「公、災害防止協定」を締結したが、これら公、災害防止に関する協定内容は、公、災害発生の防止に関しては、従来の同種の協定に比較すると非常にきびしい内容のものとなっている。

(五) 沖縄地方は、わが国南西部に位置し、わが国に輸入されている石油の大部分を占める中近東、アフリカ、東南アジア等からの石油がわが国へ輸入されるルート上にあるから、産出地から大型タンカーで輸送された原油を備蓄し、いったん備蓄された原油を中、小タンカーで国内の各地にある精製工場に運搬することを本来の業務とするCTSにとっては極めて優れた立地条件にある。更に金武湾地域は、沖縄県本島の中央よりやや南寄りの東岸に位置し、太平洋に面しており、勝連半島、浜比嘉島、平安座島、宮城島、伊計島によって囲まれた地域でその面積は約一万八〇〇〇ヘクタール(五三〇〇万坪)であり、湾口は広く、水深も深く、霧の発生も少なく、大型タンカーの安全な出入港に適した天然の良港であり、しかも湾岸の地盤は強固でCTSの建設に支障がない。与那城村から金武湾東岸の埋立事業の協力を求められた三菱商事等が、埋立地がCTS基地に最も適していると判断したのは、このような立地条件に着目したためであって、その事情は現在でも同様であって本件敷地は、CTS建設のための最適地である。しかも、沖縄三菱開発は埋立地の一部約四万坪を道路、緑化用地、漁港関連用地及び護岸として与那城村及び県に無償で提供し、債務者石油基地はそのうち緑化用地を植樹の上管理することを約し、CTS建設による自然環境の保全を期しているのである。

(六) このように本件CTS建設は、そもそも地元の与那城村の離島の本島化及び産業誘致策の要請に応じてCTSとして最適地に計画されたもので、地域開発のために貢献するとともにわが国の石油備蓄政策に寄与し、しかもその計画の実施にあたっては、消防関係諸法令に適合することはもちろん、公、災害防止について、十分に配慮し、前記のとおり、沖縄県及び与那城村との間において、きびしい公、災害防止協定を締結しているのである。

九  同九について

1  債権者らは、本件建設工事がわが国の石油備蓄政策の一環として行なわれるものであることを自認しながら、この備蓄政策を不当であるとし、更に石油文明、石油消費の増加を非難して、本件工事の必要性ないし公共性を否定しようとするもののようであるが、その大部分は、国の産業政策ないしエネルギー政策に対する批判にすぎず、本件において訴訟法上特段の意味を有しえないものである。むしろ、本件審判においては、わが国において、石油エネルギーが果している役割、備蓄の必要性ないし公共性について、その具体的実情を認識し、またそれらとの関連において、本件備蓄基地建設が有する意味を正当に理解することが、債権者の主張する差止請求権の存否と密接な関係を有することを看過しえない。要するに、すでに述べたように債権者らが本件差止請求の基礎として主張する環境権又は人格権なるものは、その論拠として不十分であることはもとよりであるが、仮に、その間になんらか認めうるものがあるとしても、本件におけるように、指摘される危険性について前記のように十分な対策が講ぜられ、また建設工事の内容が公共的性格を有する場合においては、差止請求権の発生が阻止され、又はその行使が濫用として制限されざるをえないのである。

2  わが国のエネルギー消費は、戦後の経済成長に伴なって増加し、一九七〇年には、西ドイツをも凌駕して自由世界第二位となったが、ここで、一次エネルギー全供給量の中で石油の占める割合を見ると、昭和三八年度においては五一・八パーセントであったのに対し、昭和五〇年度は七三・三パーセントに達している。そして、このような石油依存の実態ないし傾向は、今後、原子力、LNGなどの代替エネルギーの導入が積極的に推進されたとしてもなお継続し、昭和六〇年度には、現在の一・五倍の量、約四億三二〇〇万キロリットルが必要とされるものと予想されているのである(さる昭和五二年六月七日に総合エネルギー対策推進閣僚会議に報告、諒承された総合エネルギー調査会の答申は、昭和六〇年度における石油依存度を現在よりも低く六五・五パーセントと設定して右の必要量を算出している。)。なお、右の必要量がわが国の国民生活及び産業の維持、発展にとって不可欠なものであることについては、あらためて多言を要しないであろう。

3  ところで、右の石油エネルギーの供給に際しては、石油資源の乏しいわが国は、その九九パーセント以上を海外からの輸入に頼らざるをえず、しかも輸入原油については、約七八パーセントを中東地域に依存しているのであって、この事実は、わが国のエネルギー供給が複雑な国際情勢の変動によって直接左右されやすい状況にあることを示している。そして、この危惧は、周知のとおり、昭和四八年一〇月の第四次中東戦争に端を発した石油危機において、灯油、軽油、A重油などの品不足、タクシー用LPガスの品切れなどわが国の経済と国民生活に大きい影響が与えられたことによって現実のものとなったのである。その際、政府は、石油の消費節減と備蓄の放出により対処したが、アラブ諸国による供給制限措置が一二月末に緩和されたこともあって、重大事態を避けることができた。しかし、仮にかかる緩和措置がさらに遅れていたならば、国民経済社会の混乱は一層大きくならざるをえなかったことが指摘されているのである。

4  このような危機を防止するための方策については、かねて総合エネルギー調査会等において検討されているところであり、原子力等の新エネルギーの開発促進、石炭、水力等国内エネルギーの有効利用などについても十分な考慮が払われてはいるが、なお、国際市場において最も豊富低廉なエネルギーである石油に大きく依存せざるをえないことは不可避である。

そして、このように石油エネルギーに依存することが不可避であるとすれば、原油の低廉安定供給を確保するための現実的対策を検討すべきことが必要となるが、その対策のうち備蓄の増加がもっとも効果的なものとして考慮されることとなるのであって(他に海外原油開発の促進、ソ連原油その他の特殊原油の活用、国際原油及び天然ガスの開発促進なども対策となりうるが、直ちにその効果を期待しえないことはいうまでもない。)、このことは、わが国よりも早く一九五六年のスエズ動乱や一九六七年の第三次中東戦争による苦難を経験したヨーロッパ諸国において備蓄の必要性が早くから認識され、備蓄増強の努力がなされてきていることによってその合理性が証明されるのである。

5  わが国における石油備蓄増強の必要性については既に昭和四二年二月、総合エネルギー調査会答申において石油備蓄増強の必要性が指摘され、更に昭和四六年一二月には、昭和四九年度末を目標として六〇日備蓄を達成することとし、そのために政府としても積極的に助成を講ずる必要がある旨の総合エネルギー調査会の中間報告がなされた。そして、この中間報告に応じ、政府は昭和四九年度末六〇日備蓄を目標とし毎年度五日ごとの備蓄増強を図ることを内容として六〇日備蓄増強計画を昭和四七年度から開始し、行政指導によりその増強を推進して来たのである。

しかしながら、第四次中東戦争による深刻な石油危機を経験したため、緊急時における石油供給の安定を図り、国民生活と国民経済の安全を確保するためには、石油備蓄の抜本的増強を図ることが不可欠であることが強く認識されるに至り、昭和四九年七月、総合エネルギー調査会石油部会は中間とりまとめを報告し、その中で九〇日分まで備蓄水準を計画的に増強するよう備蓄体制の確立に努めるべきことを指摘したが、更に右調査会総合部会も同様に備蓄の重要性を強調するに至った。

このような経緯にかんがみて、政府は、従来の六〇日備蓄増強計画に引き続き、昭和五〇年度から五四年度末九〇日備蓄達成を目標とした九〇日備蓄増強計画を策定し、備蓄の抜本的増強を計ることとなったのである(昭和五〇年一二月総合エネルギー対策閣僚会議の「総合エネルギー対策の基本方針」において「九〇日分を目標とする石油備蓄を引続き維持する」旨が決定されている。)。

右の九〇日備蓄増強計画は、昭和五四年度末九〇日備蓄達成を目標とするものであり、その計画によれば、今後の石油需要の伸び如何にもよるが、昭和五四年度末までの五年間で石油二六〇〇万キロリットルの積み増しが予定され、この積み増しに要する備蓄施設については、貯油能力約三三〇〇万キロリットル(一〇万キロリットルタンク三三〇基)、土地は約五〇〇万坪という大規模な計画が予想されている。そしてこの計画実施に要する資金は、総額一兆四七〇〇億円に達し、またこの資金に対する金利、施設の償却、固定資産税等のコスト負担は、五年間で約五八〇〇億円と試算されている。

6  ところで、このように国民経済上の安全保護の観点から行なわれる石油備蓄は、本来国の責任で実施すべきものであるが、実際には、国がみずから石油を保有することなく、これを石油企業に実施させることとし、国は、石油備蓄増強に伴なう資金及びコストの負担について所要の財政、金融上の措置を講ずるとともに、石油備蓄法(昭和五〇年一二月二七日法律第九六号)を制定して石油備蓄の計画的増強と備蓄水準の維持を図ることとなった。すなわち、同法は、石油の備蓄が「国民生活の安定と国民経済の円滑な運営の確保に欠くことのできない」国の施策であることを明らかにしたうえ(三条)、通産大臣が、毎年度、次年度以降の四年間について石油備蓄の目標数量及びそのために必要な新たに設置すべき石油貯蔵施設の貯蔵能力等の事項を内容とする石油備蓄目標を策定し公表すべきこと(四条)、石油精製業者等はこの石油備蓄目標の策定を受けて、毎年度、次年度以降の四年間において当該企業が実施すべき石油備蓄実施計画を作成して通産大臣に届けるべきこと、通産大臣は、右計画について変更勧告をなす権限を有すること(五条)、確保された備蓄水準を維持するために、通産大臣は、総量がわが国の前年の石油消費量の七〇日分から九〇日分に相当する範囲内にあるよう算定した基準備蓄量を毎年石油精製業者等に通知することとし、石油精製業者等は、毎年度、通知を受けた基準備蓄量以上の石油を常時保有する義務を負い、保有量が基準備蓄量に達していない場合には、通産大臣は、保有勧告又は保有命令を出すことができること(七条)、更にこの命令に違反した者に対しては、罰則を課すること(一五条)等を定めているのである。

以上概観したところから明らかなとおり、九〇日石油備蓄増強計画は、石油精製会社等が経営上必要とするストックの限界を越え、国の政策的要請に応えるため、実質上国に代わって石油備蓄を行なうものであり、まさに公益に奉仕するものといわざるをえない。

7  ところで、債務者石油基地が建設を予定している本件CTSは、右のような国の政策的要請に応ずるためのもので、その施設は、特にその共同出資者たる三菱石油株式会社及び丸善石油株式会社並びに各関連子会社たる東北石油株式会社及び関西石油株式会社(右の両グループ各社は、石油備蓄法にいう石油精製業者等に該当し、その販売シェアの合計は、約一六パーセントである。)が石油備蓄法に基づく備蓄の責任を果すために使用することが予定されているのである。

すなわち、両グループが法七条一項に基づき通産大臣から指示された本年度の備蓄量は三菱石油グループ(三菱石油及び東北石油)三四七万七〇〇〇キロリットル、丸善石油グループ(丸善石油及び関西石油)三七一万三〇〇〇キロリットル、合計七一九万キロリットルであるが、法四条に基づき通産大臣が定めた昭和五三年度以降の四年間の備蓄目標(昭和五二年四月二日通産省告示第一四八号)に関し、両グループは、法五条一項の定めに従い、つぎのとおり九〇日備蓄実施計画を提出している。

備蓄日数

備蓄数量

(両グループ合計)

昭和五三年度

八〇日

約八〇〇万キロリットル

同五四年度

八五日

約九〇〇万キロリットル

同五五年度

九〇日

約一〇〇〇万キロリットル

右両グループの実施計画によれば、九〇日備蓄が達成される昭和五五年度においては、両グループの備蓄義務量は、昭和五二年度のそれに比して約二八〇万キロリットル増加することが予想される。

このような備蓄量増加に対し、両グループにおいては現存タンクによる備蓄積み増し、製油所、油槽所等既存の用地におけるタンクの増設等による備蓄増加にも意を用いているが、なお昭和五五年度において右推定備蓄義務量を収容することは不可能であり、そのためには、本件CTSの原油タンクの利用が必要となる。そしてその基数は、三菱石油グループ八基、丸善石油グループ一三基、合計二一基と推定され、この要請に応ずるためには、現在その建設に着手することが必要なのである(この種の建設工事に相当長い工期が必要であることは明らかである。)。

このように両グループ各社は、石油備蓄を増加するためにその貯蔵施設を新増設し、それに必要な資金を負担せざるをえないのであるが、この備蓄増加量は、通常の営業活動のために必要とされる在庫(通常四五日分といわれている。)と異なり、緊急事態に備えて石油の安定供給を確保し、国民経済の混乱を防止しようとする国の要請に基づくものである。

一〇  同一〇について

公害防止協定については、前記八4で述べたとおりである。

一一1  同一一1の事実は争う。

水島事故は、後に述べるように、直立階段(本件においては、このような階段は取りつけない。なお、この階段の重さは、台座を含め約四〇トンであった。)の台座を据え付けるために、一度造成したタンク本体の基礎の一部を掘削し、その後を不完全に埋め戻したため、その部分が局部的に支持力を失ったことが決定的原因であり(このことは、昭和五〇年一二月一八日政府事故原因調査委員会が発表した「三菱石油水島製油所タンク事故原因調査報告書」―(以下「最終報告書」―という)においても同趣旨のことが述べられている。)、未だかつて先例のない極めて異常特異な事例であって、事故の原因は他のタンクにも当然にその潜在が予測されるという性質のものではない。

2  同2の事実中、昭和四九年一二月一八日二〇時四〇分頃岡山県倉敷市海岸通り四丁目二番地にある三菱石油水島製油所において、T二七〇屋外貯蔵タンク(公称容量五万キロリットル、側板高さ二三・六七メートル、内径五二・三〇二メートル)から直接脱硫重油(C重油ではなく温度も平均約八〇度Cである)が約五ないし六メートルの高さから落下しているのをパトロール保安員が発見したこと、事故の通報を受けた操油課員が直に現場に急行し、二〇時五〇分頃直接脱硫装置からの送油をT二七〇タンクからT二七一タンクへ切り換えたこと、ついで二一時五分頃T二七〇タンクの重油をT二七一タンクへ油面の高さの差を利用して送油しようとバルブ操作を行なったこと、その直後大音響とともに大量の重油が流出したこと、流出した重油は直立階段を台座ごと押し流したこと、直立階段の高さが約二四メートルであったこと、直立階段が重油の勢いで押し流され、そのため防油堤(高さ一・五メートル厚さ一二センチメートル)は長さ七・三メートル、高さ最大一メートルにわたって破壊されたこと、流出した重油はこの高さ一・五メートルの防油堤を大きくのりこえて流出したが、一部は防油堤の破壊個所からも流出したこと、T二七〇タンクの重油は約三万七〇〇〇キロリットルが流出したほかに、同タンクとの間の配管のバルブが開かれていたT二七一タンクの重油約六〇〇〇キロリットルがT二七〇タンクを通じて外部へ流出したこと、その大部分は、同タンクの防油堤内を含む構内の一部約一四万八〇〇〇平方メートルに滞留したが、約七五〇〇ないし九五〇〇キロリットルと推定される量の重油が海上に流出したことは認めるが、その余の事実は争う。

最初に油もれの事実が発見された時、アニュラプレートの亀裂からもれた油がその前面に設置されていた直立階段の台座にぶつかって上方に吹きあげていたが、その後突然大音響とともに、アニュラプレートの大亀裂及びタンクの屋根の大破壊が生じ、大量の重油の流出が始まったが、アニュラプレートが先に大亀裂をおこし、大量の重油が流出したために、タンク内にバキューム現象がおこり、屋根が破壊したのか、屋根の破壊の衝撃でアニュラプレートに亀裂が入ったのかは不明である。

いかし、いずれにしても当時破断部からの流速は急激に増加していたこと、大量流出の始まる直前に行なった操作後バルブが全開するまでには時間を要すること、バルブが全開してもそこから流れる流速は破断部から流出していた流速よりはるかに低いことなどから考えて、大破壌とこれに伴う大量流出がバルブ操作の影響でないことは明白である。また本件タンクは、昭和四九年一二月一八日に事故が発生する以前において油の漏洩の事実はない。

3  同3(一)の事実中、T二七〇タンクのアニュラプレートと側板の内側溶接趾端部(アニュラプレートの溶接部ではない)で破断していたが、この内側溶接部の溶接が五ないし六パスであったことは認めるが、その余の事実は争う。

同(二)の事実中、アニュラプレートの破断が直立階段台座に面している個所で起きたこと、直立階段の台座をつくるため東洋工務店はアニュラプレート直下の盛土及び砕石を除去したうえ砂による埋め戻しを行なったがこれが不十分にしか行なわれなかったこと、右作業がタンク水張り中に行なわれたこと、右タンクの建設がいわゆる「TAL工法」によって行なわれ、右工法では空気圧をかけるためのパイプを納めるカルバートが基礎地盤のなかに設置されるものであることは認めるが、その余の事実は争う。

砕石リングを除去したこともさることながら、アニュラプレートの下の基礎部分を水張り期間中に掘削し、埋め戻しが不十分であったことが支持力を失わせる結果となったものである。なお、アニュラプレートの上面に初期亀裂が発生したのは水張り中であるが、アニュラプレートが破断し漏えいが開始したのは、水張り中ではなく、前述のタンクの大破壊の寸前であり、その破壊の性質は脆性破壊ではなく延性破壊である。すなわち、破壊は、水張り及び重油の貯蔵による継続的荷重の保持及び十数回程度繰り返された荷重の変動の結果亀裂が成長して起きたものであり、延性破壊によることは破面観察によって確認されている。また「TAL工法」の採用と事故との間には直接因果関係はない。

同(三)の事実中、事故後の消防法の改正によってタンク側板の高さ、アニュラプレートの板厚が変更されたこと、昭和四六年五月アメリカ石油学会でエッソ技術研究所が債権者ら主張のような報告をしていることは認めるが、その余の事実は争う。事故調査委員会は中間報告書を発表したのち、更に検討を加え、事故原因の最終結論として昭和五〇年一二月一八日に最終報告書を発表したが、同最終報告書によればタンクの構造、強度についての配慮が不十分であったことが水島事故の原因となったとの指摘はない。

同(四)の事実中、埋立地の地盤改良のためにサンドドレーン・プレロード工法を用いたこと、この工法ではプレロードによって少なくとも圧密率八〇パーセント(現在では九〇パーセント)まで地盤を圧密させるが、まず、タンク底部にかかる荷重の約四〇ないし五〇パーセントに相当する盛土でプレロードを行ない、そののち圧密をタンクの水張りによって完了したことは認めるが、その余の事実は争う。直立階段台座の据え付けのための基礎の掘削、埋め戻しの部分は別として地盤と事故との間には因果関係はない。

同(五)は争う。

4  同4の事実中、重油流出によって東瀬戸内海一帯が相当範囲にわたって汚染され、漁民に被害を与えたことは認めるが、その余の事実は争う。

事故後に本件事故が原因で事故海域に赤潮が大量に発生したことはないし、同海域は既に事故前の状態に戻っていて、事故による後遺症は残っていない。

一二  同一二の主張は争う。

(申請理由に対する債務者ターミナルの認否及び同債務者の主張)

一  申請理由一1の事実は知らない。同2の事実中、債務者ターミナルに関する部分は認める。

二  同四について

債権者らは、CTS建設工事による環境破壊を主張しているが、債務者ターミナルは、右主張事実を全部争う。債権者らも主張するように、昭和四九年一二月一八日発生した三菱石油水島製油所の重油流出事故をきっかけにタンク事故の原因解析がなされ、その結果に基づいて事故防止対策が法律化されている。そして、その事故防止対策は、タンクの基礎、本体の細目配管等にまでふれており、債務者ターミナルの新タンク建設も、そこで示されている規定に準拠して設計がなされ、申請の結果、沖縄県によって、建設許可がなされたものである。

1  同四1について

債務者ターミナルの建設する原油タンクの屋根の構造は、フローティングタイプであるため、ガスの発生量は極端に少なく、固定式屋根の原油で発生するガスの量と比較すると、一〇〇〇分の一程度であり、ガソリンスタンドで地下タンク受入の場合に比すると、二二五〇分の一であり、油蒸気の発生が、火災の原因となることは考えられない。

2  同2について

タンクに原油を受け入れる際の過失を発見するために、ハイアラーム(容量の満杯手前になると、ブザーがなり、注意を喚起する)システムや、バルブの誤操作も、パネル上で一目で分かるように表示されているので、単純ミスの防止は、十分になされている。

3  同3について

タンク本体については、五年間に一度、内部の開放検査をし、破損、漏せつの危険のある個所の探索を行なうことになっているので、破損の可能性のある個所は摘出され、直ちに修理されることになる。

また、不等沈下については、その測定が義務づけられており、債務者ターミナルでも、年二回、測定を実施している。その上、債務者ターミナルの設置を予定している場所は、埋立地ではないので、最大でも二〇〇〇分の一程度であり、タンクの事故につながる要素はない。

更に、タンクの各部の詳細部についての検査も、定期点検項目が定められ、同点検結果の報告も義務づけられているし、その上、チェックリストによる日常点検を実施し、事故発生の防止に万全を期している。

4  同4について

債務者ターミナルのタンクヤードは、貯蔵設備だけであり、必要とされる付属設備も、配管、タンクミキサーのみであって、高発熱体等の着火源はない。

タンクミキサーのモーター等の電気設備は、最もきびしい耐爆構造のものを使用するので、引火爆発の原因となることはないし、人体の静電気帯電に関しては、耐静電靴、耐静電服を採用して、予防に当っている。

5  同5について

腐食については、十分なデーターを参考にして考慮しているし、側板の材質が高張力鋼であることを加味すると、充分な板厚が採用されることになっている。

6  同8について

タンクの設計風速は八〇メートル/秒をとっており、風圧も十分に考えに入れられているので、安全は充分以上に確保されている。

大雨処置としては、タンク屋根に排水管が設置されており、右の排水に際しては、万一の油の混入の危険をおそれ、単独の排水路を使用し、セパレーターを経由し、処理された後で、海に流れることになっている。

また、台風時には、中城海上保安署の避難勧告が発動されるので、全荷役は、陸上の作業も含めて全部中止され、全所員非常態勢をとり警戒、監視を強化し、事故防止に備えている。その時には、当然タンカーは港外へ避難している。

三  同五について

大型タンカーの金武湾航行に際しては、海域を熟知したパイロットを乗船させ、また、タグボートが先導低速で運行するので、債権者ら主張のような危険は十分に防止できる。

また、金武湾内航行については、一元化され、出入港の整理調整をする等、安全に注意を尽くしている。

四  同六3について

1  前記のように、事故発生防止に万全の処置を採用しているが、その外に、二時間ごとに作業員が巡視しているし、その上、防油堤内に漏せつ油検知器を取付け、万一の漏油が直ちに集中制御室で発見できるようになっている。仮に、漏油が発見されると、漏せつ油のあったタンクの残油は、直ちに他のタンクに移されるようになっており、万一、タンク全量の油が流出したとしても、それらの油は、防油堤内にとどまるよう、防油堤の設計がなされている。

更にタンク上部に、火災発生時には、泡消火薬剤が発泡した状態で自動的に放出されることになっているので、タンク上部屋根上の火災は、これで消火される。また、タンク間の距離が十分にとられているので、消防自動車の放水で隣接タンクを冷却することで、延焼をさけることが可能である。

2  海上油流出事故発生時の対策は左のとおりである。

シーバース全周を囲む浮沈式の一三〇〇メートルのオイルフェンスが設置されており、波上五〇センチメートル波下六〇センチメートルの性能を有する日本では最優秀のものである。そして、滞油性能は、風速一五メートル、波高一・五メートルでも効果があるし、(但し、風速一五メートル以上となると、全ての荷役は中止される。)その上、可搬式オイルフェンス設置の準備もすすめている。

また、油流出事故に備え、法定数量の油吸着材、油回収船、油乳化剤を備えている。油乳化剤は、海上保安庁の認定をうけた天然の脂肪酸、ブドウ糖等を界面活性剤の原料とし、溶剤も九九パーセント微生物によって分解されるノルマルパラフィンを使用した毒性が極度に少ないものであり、また、使用についても、監督官庁の許可を必要としている。

更にタンカーの火災、又は、シーバース上の火災に備えて、シーバース上には、泡による消化活動の可能な四基の汽発泡ノズルが設置されているほか、シーバース上には、散水設備があるし、海面火災に備えては、シーバース脚に散水設備がとりつけてある。このほか、全タグボートは、泡消火能力を有しており、その性能は全国でトップクラスであり、更に増強が予定されている。

五  同七について

債権者らは、原油の蒸発についての危険を述べているが、前に述べたように、油蒸気の発生量は極端に少ない上にその拡散も、すみやかである。すなわち、二PPMの濃度にまで拡散されるのを、蒸表面との関係でみてみると〇・五メートル/秒の微風時でも、高さ一・五メートルの、一メートル/秒では約〇・五メートルの、四メートル/秒では〇・二―〇・三メートルの高さで、二PPMの程度拡散されるのであり、周辺人家と二〇〇メートルから三〇〇メートルも離れていることをあわせると、原油蒸気が問題となることはない。

六  同八1、2の事実中、地理的島々の所在に関する事実、外資導入免許についての事実及び埋立についての事実、琉球政府立与勝海上公園の指定、解除の事実は認める。但し、指定解除に際しては、周辺村である与那城と勝連の両村の意見の聴取がなされている。そして、その余の事実は不知。更に、公有水面埋立無効についての紛争は、裁判上で明らかなとおり、解決済みであり、それ故に、本件とは関係がないと考える。

同3の事実中、債権者ら主張のような石油関連企業が進出したこと、及びその主張のような事故の発生があったことは認めるが、債務者ターミナルのタンク設置そのものに対する損害発生とは関係がない。また埋立による環境破壊についても、本件タンク建設とは関係がないものと考える。

七  同一二について

前に述べたとおり、債務者ターミナルのタンク建設設置については、予測される危険の発生はないし、十分な予防措置がほどこされている。

そして、債務者ターミナルは、既に同種の設備を有して、営業を現に営んでいることを考えると、仮処分の必要性は存在しないというべきである。

(疎明資料)《省略》

理由

第一本件CTS建設計画の概要

一  債務者石油基地について

債務者石油基地が、石油類の貯蔵及び受払作業並びにこれに関連する事業を営むものであって、別紙物件目録(一)記載の埋立地に同目録記載の危険物貯蔵所を建設することを計画し、その工事に着手しようとしていること、その原油貯蔵タンクは、一基につき、内径八〇メートル、高さ二二メートル、重量二〇〇〇トン、容量九万九五〇〇キロリットルで、付帯設備として通気弁(大気圧弁付ブリーザー)、エアフォームチェンバー、パイプを有し、タンクの周囲には高さ一メートルの仕切堤及び一・八五メートルの防油堤を設けようとするものであること、埋立地と二一基の原油タンク群の位置関係は別紙図面(二)のとおりであることはいずれも債権者らと債務者石油基地との間で争いがなく、いずれも成立に争いない乙三号証の一ないし二一、五、六、八、九号証の各一、二(以下において成立に争いのない書証はその旨の記載を省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、与那城村は、昭和四三年に、同村平安座島と宮城島との間の公有水面を埋め立てて産業を誘致することを計画し、同四四年に申請外三菱商事株式会社に対し協力を依頼したこと、その結果、CTS(セントラル・タンク・ステーション又はセントラル・ターミナル・ステーション。原油中継貯蔵基地)立地の方針が定まり、同四六年、与那城村は公有水面埋立免許を申請するとともに、三菱グループ中の申請外三菱開発に対し埋立事業を委託することを村議会で承認したこと、その後、免許申請人は申請外沖縄三菱開発株式会社に変更され、昭和四七年沖縄三菱開発に対して約六四万坪に関する埋立免許がなされ、同五〇年一〇月埋立竣工認可がなされたこと、右埋立地はその後申請外三菱石油株式会社及び同丸善石油株式会社に譲渡され、債務者石油基地は昭和五一年五月右両社からこれを賃借したこと、同債務者は同四八年八月及び同五一年四月の二回に分けて本件原油屋外貯蔵タンク(以下、本件タンクという。)二一基の設置許可を申請し、同五一年六月二二日沖縄県知事から消防法一一条一項の許可を受けたこと、以上の経緯のもとに債務者石油基地は本件CTS建設計画を実現しようとしているものであるが、債権者らが建設差止めを求めている本件タンクの建設予定地は前記六四万坪の埋立地の西側半分に位置することがそれぞれ疎明される。

二  債務者ターミナルについて

債務者ターミナルが、石油精製及びこれに関連する事業を営むものであって、右一の埋立地に隣接する別紙物件目録(二)記載の土地上の同目録記載の危険物貯蔵所を建設することを計画し、その工事に着手しようとしていること、その原油貯蔵タンクは債務者石油基地のそれと同一の規格のもの四基であり、その敷地と原油タンク群の位置関係が別紙図面(六)のとおりであることは債権者らと債務者ターミナルとの間で争いがない。

第二債権者ら及び被保全権利

一  債権者ら

債権者らは、その主張するところによれば、別紙債権者目録に記載の肩書地に居住するものであり、それらの住所地のうち具志川市及び与那城村は、別紙図面(一)にみるとおり、それぞれ金武湾に面している。与那城村のうち、債務者石油基地のCTS建設予定地に最も近いのは、宮城島にある与那城村字桃原地区であり、同村字宮城、同上原、同池味の各地区及び平安座島にある同村字平安座の各地区がこれに次ぐ位置関係にある(ただし、債権者らの中に、これらの地区に住居を有する者はいない。)。債権者らのうちの相当部分の者が住所を有する与那城村字屋慶名地区は本件埋立地から平安座島及び海上を距てて直線で約五キロメートル、同村字照間地区は同じく約七・五キロメートルの距離にある。具志川市は、本件各CTS建設予定地と金武湾と海上約九キロメートルを距てた対岸に位置するが、沖縄市及び勝連村は金武湾に面せず、金武湾とは勝連半島で距てられた中城湾に面している。しかし、勝連村字浜地区(外洋上の浜比嘉島にある。)は、債務者らの本件CTS建設予定地と直線で海上約一キロメートルの距離にあり、債権者らの中には右地区に住居を有する者がある。これらの地理的事情は公知の事実である。

債務者ターミナルのCTS建設予定地は債務者石油基地のそれの南に隣接しているため、右各地区との位置関係は債務者石油基地についてとほぼ同様である。

二  被保全権利

1  債権者らの主張

債権者らは、債務者両名によって本件各CTSが建設されるなら、石油流出事故、タンクの爆発又は火災、金武湾の油汚染、漁船のタンカーとの衝突の危険などにより、債権者らが身体侵害、精神的苦痛及び環境破壊によるその他の生活上の苦痛を被る高度の蓋然性が存在すると主張し、人格権又は環境権に基づき侵害の事前の差止めを求める権利を有すると主張する。

2  環境権

近時の提唱にかかる環境権とは、論者によれば、人の生活を取り巻く環境、特に大気、水、日照、静穏、景観などの自然的素材のほか、社会的諸施設や文化的遺産などの社会的・文化的環境素材は、人間生活に不可欠な要素であって、すべての国民は、良い環境を享受し且つこれを支配する権利を有するが、環境権は、すべての人が共通の財産として享受しうるという意味で、関わりのある地域住民が平等に共有するものであり、それは絶対権であって、環境侵害の事実が存在するか又は環境破壊のおそれが存在すれば利益衡量なしに侵害行為の差止めが許されなければならず、侵害の存否は特定の個人に対するものだけでなく生態系の変化を含めて総量的に評価されなければならないとされるのである。

右の見解は、今日の社会状況のもとにおいて、環境価値が基本的人権の一部として優先的に保護されなければならないとの思想に発するものと解されるが、環境全体の問題は、国民ないし住民の民主的な選択に従い、立法及び行政の制度を通じて公共的に管理されるべきものであって、環境に関する多様な利益の合理的調整は、当事者主義の制限の範囲内で個別的紛争の解決のみを目的とする民事訴訟制度のよく果たし得るところではない。現行法下の民事訴訟は、当事者間の紛争を、客観的な法を基準として解決する制度であり、とりわけ差止め請求のように、他方当事者の私権又は自由を制約するていの訴訟類型においては、個々人に割当てられた自由領域としてその範囲内では原則として権能行使の自由が保障される私権を、倒外的に制約する意義を有するのであるから、一層客観的且つ明確な法的根拠と規準とを必要とするのであるが、右にいう環境なるものの概念自体、その地域的広がり、対象的広がり、各個人とのつながりの点で明確ではなく、環境に対する侵害といっても、およそ人の営為にして自然に対する侵害ないし変容に非ざるものはないのであるし、良い環境といった価値概念に至っては、その内包を規定することが困難であり、要するに環境権及びその侵害の概念の不明確さは掩い難いうえ、自然環境ないし地域環境が私権の目的たり得るか、絶対権且つ排他的支配権であるとすることと万人の共有であるとすることの私法上の意味内容、万人に属する権利を一部の者が行使できることの法的根拠、裁判の効力の及ぶ範囲などの点でも疑問がある。

これを要するに、環境保護に優先的価値を求める環境権論には傾聴すべき点がなくはないとしても、環境権なるものを私法上の具体的な権利として構成できるかについてはなお多くの問題があり、未だ一般の承認により権利性が確立されたものともいえないので、債権者らにかかる被保全権利があるとの主張には左袒し難い。

3  人格論

財産権は、人の自由と尊厳を実現する手段として法によって保障され、それへの侵害に対しては物権的請求権や商法その他各種の特別法上の救済手段を与えられているが、人の生命、身体、健康、自由、氏名、名誉、肖像、生活像、性格像、秘密といった人格的諸利益は、自由な意思をもつ人間そのものの存在に関わるものとして、財産権に対する以上の法による保障が与えられて然るべきものである。このことは、民法七一〇条、著作権法一一二条以下にも一部分明定されているが、それらの人格的諸利益を包括する観念として人格権を認め、これが侵害に対して差止め、原状回復、損害賠償などの法的救済を容認することは近時多くの論者によって承認されるところである。

かかる人格権は、対世的なものであり、絶対権に属すると解されるが、その内包及び外延は一義的に明確ではなく、その中核的部分に属する生命、身体、健康の安全は人の生存に直結するものとして法上最大限の保護を必要とするが、その外延部においては処分を許さないものではないことも争い得ないところであろう。

そこで、絶対権であるが故に、これに対する侵害は常に違法であり、利益衡量を許さないとか、これが侵害に対する法的救済手段として常に差止めが許されるといった結論を導くのは硬直に過ぎるものというべく、人の活動なくして社会は成立し得ず、すべての権利は、社会との関わりにおいて存在し、相対的なものであるという性質を免れないのであるから、人格権侵害に対して法的救済が認められるかどうか、認められるとしてその救済手段ないし救済の程度如何の具体的問題を解決するためには、多少の差はあれ、諸種の事情の利益衡量を免れない。

しかして、人格権に対する侵害のうちでも、生命侵害や身体又は健康に対する著しい侵害をもたらす行為に対しては、原則的に、利益衡量を容れる余地はほとんどなく、且つその救済手段は差止め又は原状回復であって然るべきものと考えられるが、身体又は健康に対する侵害をもたらす行為であっても、その程度の著しくないものに対しては、侵害行為の態様・程度・継続性、被侵害利益の内容・性質・程度、侵害を生ずべき行為の社会的有用性ないし公共性、地域性、被害防止対策の可能性と防止のためになされた努力の程度、公法上の規制基準との関係などの諸種の事情の相関的衡量のうえで、法的救済手段、とりわけ差止めないし原状回復の許否が決せられて然るべきものである。

右の見解は、「著しい侵害」との不確定概念を用いる点で、裁判規範としての明確さと法的安定性に欠ける嫌いもないではないが、高速度交通機関に例をとっても明らかなように、企業の活動にして不可避的に生命侵害の結果を伴うものであっても、その社会的有用性の故に企業活動を許すべきものとして社会が承認するものが存在するのであって、裁判規範として明確性と法的安定性は具体的事例の解決の積み重ねの上に自ずから帰結されるものというべきである。

そして、差止めの許否に関する前記の基準が、既発の侵害に対する場合といわゆる事前差止めの場合とで異なるべきものであるか否かについては、現実の利益衡量の場面で差異を生ずることがあり得るとしても、抽象的基準自体を異にする必要はないものと解される。

4  本件における審理判断の範囲

右の見解を前提とした場合、本件において、債権者らの人格権に基づき債務者両名のCTS建設差止めが容認されるか否かについては、右CTS建設及び操業によって債権者ら各自のいかなる人格的利益にいかなる侵害を生じうるかの検討が先行し、その後に、必要によっては、すなわち侵害の程度が著しくないというような場合には、諸種の事情の利益衡量を経て、本件申請の許否の判断に至ることとなるが、右の検討をするにあたり、本件で問題となるのは、人の生命、身体、健康に対する侵害の存否であって、これらの存否に直接結びつかない自然的環境ないし地域環境の一般的悪化の問題は、利益衡量が必要とされる場合に、CTS建設予定地の付近住民で本件申請に加わらない者への同種の被害を社会的有用性の減殺要因として総量的に評価する意味では考慮の対象となり得ても、事柄の性質上、人の生命、身体、健康に対する侵害をもたらすかどうかとは別個のことであるから、人格権に基づく差止め請求の許否の判断とは無縁のものであり、また、漁業環境の悪化の問題も、人の自由と幸福追求の手段として実定化された財産権の保護の問題であって、人格権侵害の問題ではないから、いずれも考慮の対象とはならない。

第三三菱石油水島事故に関する考察

一  はじめに

CTSの建設及び操業が付近住民の生命、身体、健康に及ぼす被害の原因として考えられるものの中で、最も大きなものは、タンクの火災又は爆発、タンクの破損による構内流出原油の火災、構内事故又はタンカーからの海上流出原油の火災であり、これらに次いで、流出原油又はタンク内から発生する気化ガスの問題があげられる。

これらについては、過去においてそれぞれの実例もあり、その検討を通じて事故原因及び被害結果とこれらの防止対策を知ることができるのであるが、これらの経験を土台として、タンクの構造、付帯設備、基礎及び地盤に関する設計施工には改良された点も多々あり、実用の技術と理論は不断に進歩するので、本件タンク建設に関わる問題点の検討にあたっては、比較的新しく、且つ本件タンクと構造・規模・基礎・地盤・工法などの点で類似のタンクの事故例を検討することが有益である。

その点で、昭和四九年一二月に発生した三菱石油水島製油所のタンク事故(以下、水島事故という。)は、昭和四八年末完成の新しいタンクで、本件タンクとの間に地盤改良工事、TAL工法、タンク完成後の水張り荷重などの点で共通性を有し、且つ、引火には至らなかったものの、流出油量が大で、火災による被害発生の可能性も存在した点で、好個の参考となるものである。

それで、以下において、水島事故の概要をみるとともに、事故原因の検討を経て、項を改めて、本件タンクの建設及び操業上の問題点を考えることにする。

二  水島事故の概要

甲一〇号証、一五ないし一七号証、四五号証、乙三〇号証の一、二によると、事故タンクの設置条件及び水島事故の概要は次のとおりであることが疎明される。

1  原地盤は、事故後、タンク外側近傍の原地盤についてボーリング調査した結果では、地表面から一・〇メートルは陸上の埋立地、一・〇ないし四・七メートルはサンドポンプによる埋立土、四・七ないし九・六五メートルは高梁川の河口で堆積した砂層、九・六五ないし一八・〇メートルは軟らかい粘土層、その下は堅固な砂礫層となっている。埋立てによって形成された地層は全く不規則な砂と粘土の混合した土である。砂層における標準貫入試験のN値は一〇以下で緩い。

地盤改良工事前のものとみられるある地点の地質柱状図によると、N値が、深度八メートルまでは〇、それ以深一六メートルまでは最高二の軟弱地盤が続き、一七メートルにおいて一八、一八メートルにおいては四六、一九メートルにおいて六二である。

2  タンク基礎は、パックド・ドレーン工法及びプレロード工法にウェル・ポイント及びバキューム・ディープウェル併用による地盤改良を行ない、更にタンクの水張りにより基礎の圧密を促進する工法が採用された。事故のあったT二七〇タンクの基礎工事は、昭和四七年一〇月三〇日開始、直径一二〇ミリメートル、長さ七ないし一七メートルのパックド・ドレーン打設、長さ八・三メートルのウェル・ポイント及び長さ二二メートルのバキューム・ディープウェル設置による排水作業を経て、昭和四八年一月二三日プレロード用盛土作業を開始、二月一五日から三月二〇日まで高さ四・五メートルのプレロード載荷をして、三月二六日盛土の撤去を完了、四月一六日から底板工事を開始し、屋根工事及び側板工事を含むタンク本体工事を八月五日完了、八月九日からタンク水張りを開始し、一一月二七日までの間最高約二四メートルの水張りをし、水張り後の漏洩及び変形確認を経て、一二月一日仕上げ工事を終えた。この間に、付設の直立階段工事が平行して行なわれたが、その工程経過は、水位一二メートルの水張り中の九月一日に基礎の掘削を開始し、九月一四日設置を終了している。

3  事故タンクは、内径五二・三〇二メートル、高さ二三・六七〇メートル、公称容量五万キロリットル、たて置円筒ドームルーフ型で、側板の最下段はWES一三五高張力鋼HW五〇で板厚二七ミリ、これと溶接される側板直下のアニュラ板の材質及び記号も同一で板厚一二ミリであった。

4  右タンクの設計は、常温での使用を予定していたが、三菱石油はこれを加熱したC重油(常圧蒸溜後、脱溜工程を経たもので、一般に市販されているC重油とは性状が異なる。)の貯蔵に使用した。本格的な使用開始の日昭和四九年五月一四日から事故当日までの油温は六五度Cから九五度Cまでの範囲にあった。

5  昭和四九年一二月一八日午後八時四〇分頃、T二七〇タンクの直立階段付近のタンク上部(底部から五ないし六メートルの位置)から、三〇センチメートル程度の幅で油が吹き出すように落下しているのが発見された。午後八時五〇分頃、操油課員は直接脱硫装置からT二七〇タンクへの送油を隣接のT二七一タンクに切替えるためのバルブ操作を行ない、次いで午後九時五分頃、T二七〇タンクから油面の高さを利用してT二七一タンクに送油するためのバルブ操作を行なったが、その少し後、大音響とともにT二七〇タンクから油が大量に流出した。この際、高さ二四・二メートルの直立階段が基礎もろとも押し飛ばされ、高さ一・五メートル鉄筋コンクリート造りの防油堤を長さ約七・三メートル、最大破壊部で高さ約一メートルにわたって破壊した。T二七〇タンクに収容されていた油のみならず、T二七一タンクに収容されていた油も、T二七〇タンクを通じて流出したが、その総量は四万二八八八キロリットルと推定される。流出油は、その約三分の二が防油堤外に流出し、そのうち多量の部分が工場構内から雨水の排水溝を経て海上に流出した。海上への流出油量を、後述の事故原因調査委員会は、七五〇〇ないし九五〇〇キロリットルと推定している。

三  調査委員会の調査報告

水島事故は、わが国においてかつて例をみない大量の油流出事故であり、海上に流出した油が広範囲の海域に拡散し、長期間にわたって瀬戸内海を汚染したため、消防庁は、三菱石油水島製油所タンク事故調査委員会(以下、調査委員会という。)を設置し、タンク事故の原因を調査するとともに、安全対策の確立に資するための検討を行なった。乙三〇号証の一、二によれば、同委員会の報告の概要は次のとおりであることが疎明される。

1  T二七〇タンクに生じた破損は、底部の亀裂、屋根の陥没及び亀裂、側板のゆがみ等である。

2  底部に生じた亀裂は、側板とアニュラ板との隅肉溶接継手の趾端部付近に沿って円周方向約一三メートルにわたるアニュラ板の破断(直立階段の中心から北方向へ約六・二八メートル、南西へ約六・六九メートル。以下、Aの破断という。)及び直立階段の中心から北へ約〇・七メートルのタンク円周上の点からタンク中心に向かう約三メートルのアニュラ板及び底板の破断(以下、Bの破断という。)であり、Aの破断部は、そのうち約三・七メートルの範囲でかなり早期にアニュラ板上表面に(下表面に達しない)青黒色の破面を生じている。この破面の発生要因の一つとして、直立階段近傍の側板直下のアニュラ板と地盤との間の隙間の形成(この形成については、直立階段付近の基礎を含めたタンク基礎の特異性があげられる。)及び当該部分の側板とアニュラ板との隅肉溶接継手が約六メートルにわたって六パスで溶接され、溶着量が大きく、溶接金属の断面形状が不規則で凸状であったという特異性があげられる。Aの破断部には、右の青黒色の破面のほかに、赤褐色の破面及び金属光沢の破面が存在し、赤褐色の破面には青黒色の破面と同様に酸化物が付着しているが、酸化物の厚さは赤褐色の破面の方が青黒色の破面より小であり、塑性流動による金属組織の乱れは、青黒色破面では殆んど見られないが、赤褐色の破面では稍あり、青黒色の破面及び赤褐色の破面の生成に寄与した荷重は、静的荷重又はきわめて繰返し数の少ない機械的もしくは機械的・熱的疲労荷重であると推定される。金属光沢の破面には酸化物の付着がなく、塑性流動による金属組織の乱れが顕著である。

Bの破断部は、すべて金属光沢を有するせん断破面であり、亀裂径路に直交する荷重によるせん断破壊により生じたものである。

なお、破断部付近の側板とアニュラ板との溶接継手のアニュラ板側趾端部にアンダーカット気味の割れ状欠陥及び深さ約一ミリメートル以下のオーバラップ気味のスラグ巻込みがあった。更に、溶接金属の表面、特に趾端の部分に、スラグが付着したままの部分がかなり存在した。このような状態のもとで行なわれた完成時の磁粉探傷試験では欠陥の検出ができなかった可能性がある。

破断部及びその付近並びに健全部から採取した鉄板の成分分析の結果、側板、アニュラ板及び底板はいずれもWES一三五規格及びJIS規格を十分満足するものであった。化学分析、溶接継手の組織及び硬さ試験等の結果において、破断部におけるアニュラ板が特に異常であったという結果は得られなかった。

3  屋根は、タンク中心を通って東西に破断している。破断の原因は、油の流出に伴い、タンク内空間が過度の負圧状態になったためであるが、陥没に至った過程を破口の急激な拡大と油の大量流出との関連で考察すると、次の二通りが考えられる。

その一は、流出破口の連続的(又は小刻みな段階的)拡大に伴い、流出する油の流量も次第に増大し、タンク内空間の負圧が短時間に増大して屋根の陥没・破断を招き、その際に生じた衝撃的圧力がタンク底部に及んで破口を急激に拡大させたというもので、この過程では、T二七〇タンクからT二七一タンクへの送油が付加的に負圧の進行に寄与した可能性もある。

その二は、流出破口の拡大に伴い流出する油の流量が増大し、タンク内空間の負圧が増大しつつも、なお屋根の耐負圧限界に達しないうちに、突然流出破口が拡大して油の大量流出が起こり、このため負圧が一気に促進されて屋根の陥没を招いたというものである。

4  事故後のタンク基礎についてみると、アニュラ板のタンク外側への張出し部表面において、最高点と最低点の差は二六〇ミリメートルであり、タンクの傾斜は二六〇分の一で、直立階段の方向に傾斜していた。底板の高低差は約三〇三ミリメートルであり、基礎の高低差は二六一ミリメートルであった。なお、水張り試験完了時における底板の高低差は一七五ミリメートルであった。

事故タンクと同様の構造のT二七一タンクの直立階段付近の基礎地盤は、局部的に沈下し、側板内側よりタンク中央部に向かって一ないし二メートル離れた個所は小高く、三ないし四メートル離れた個所では低く、それから中央部までは凹凸が続いている。一般的にタンクの側板直下が沈下しやすい傾向にあるのに加えて、直立階段基礎の施工がタンク基礎の表面に特徴ある状況を示したものと考えられる。

右直立階段基礎の施工とは、前述のとおり、水位一二メートルに及ぶ水張り中に、完成したタンク基礎を、タンク円周に沿って長さ約五メートル、奥行約〇・四メートルにわたって掘削し、その穴は直立階段のコンクリート基礎が完成したのちに埋め戻されたが、タンク底部の埋戻し部分の砂を突き固める作業が困難であるため、埋戻し砂が十分に締め固められなかった(砕石リングは撤去されたままとなった)ことであるが、更に右掘削時には基礎上面が水張りによる荷重を受けていたため、基礎の一部分に部分的変形が生じ、その部分の支持反力が減少したと考えられる。この部分的変形の範囲は、側板下より約一メートルないしそれ以上に及ぶとみられ、その範囲において基礎とタンク底部との間に隙間が生ずることになる。すると、側板下内側の隅肉溶接部のアニュラ板の曲げによって引張り応力が加わり、この部分に塑性変形とともに割れが生ずる可能性がある。

事故タンクにおける水張試験終了後の全体沈下量は、中心部において約一五センチメートル、タンクの比を〇度として右回りに九〇度の側板の位置で約七センチメートルである。T二七一タンクの直立階段基礎部では約一〇センチメートルの沈下であるが、T二七二、T二七三のタンクではそれほど大きい沈下はない。

なお、圧密前と対比した全沈下量は、タンク中心部において一七〇センチメートル、東側側板で一三三センチメートルであったとみられる。沈下は南東方向が大きく、北西方向が小さかった。

5  事故の発生経過を学問的に正しく論ずるためには、タンク本体の初期の形状(溶接による変形及び建設又は水張り直後の形状に関する正確な記録)、直立階段の基礎等を含めたタンク基礎の性状、建設中及び使用開始後の経時的変化の正しい記録等その判断に必要な客観的事実に関する正確な情報の存在が前提となるが、破断個所の基礎地盤が局部的に欠損しているため、前提条件が不足することになる。

しかし、調査を通じて、今後この種の事故を繰返さないための拠りどころが明らかとなった。それは、次のとおりである。

(イ) 軟弱地盤上に大規模タンクを設置する場合には、タンク本体の設置前にプレロード等の圧密排水による地盤改良を行ない、タンク底板に接する基礎にはよく締め固められた層を設けるとともに、側板直下及び側板周辺の基礎を堅固にし、タンク盛土の幅を広くする必要がある。

(ロ) 基礎の調査にあたっては、一定の技術能力を有する者によりボーリング調査及び土質調査を行なわせ埋立材料及び盛土材料の物理的性質及び力学的性質を考慮し、安定した基礎が作られるようにする必要がある。基礎の圧密沈下量及び速度については、施工時及び使用時に沈下量を測定することにより圧密の実態を十分把握し、設計時に予測した値と対比、検討すべきであり、基礎工事の施工にあたっては締め固め工法等について十分な施工管理が必要である。

(ハ) タンク本体の側板下部及びアニュラ板は十分な延性と靱性をもち、溶接性の良好なものとしなければならず、底部の隅肉重ね溶接継手部には、欠陥が生じ易い傾向があり、非破壊試験が容易でないので、応力の集中ができるだけ小さくなるよう、公的な機関によって認定された溶接技術者及び溶接作業者に行なわせ、良好な溶接及び適正な試験が行なわれるよう検討する必要がある。

(ニ) 防油堤の構造及び容量を検討するとともに、事業所の敷地周辺に流出油防止堤を設置し、排水溝閉鎖装置を設けるべきである。

(ホ) タンクの設計・施工に関する記録、使用開始後の定期検査、補修、操油の記録等を作成し、タンク使用者において一元的に保存させる必要がある。

(ヘ) タンク設置の際の水張試験及び非破壊試験の実施を義務づけ、タンクの沈下測定、タンク内底部の溶接部の非破壊検査等自主点検の実施を徹底して行なわせるとともに、消防機関による保安検査を強化すべきであり、技術水準が高度化している傾向に対処し、タンクの検査及び本体の設計・施工段階における審査及び検査等の実効性を確保するため、専門的知識を有する者から成る中立的検査機関の設置を推進すべきである。

四  水島事故から得られる教訓

1  調査委員会は、右三にみるとおり、最終報告において、水島事故の原因ないし事故に至る過程を明確に結論づけなかったが、中間報告(甲一七号証)においては、想定される事故要因(事故の背景となる諸要因)として、

(イ) 軟弱な地盤に対する基礎工事が不完全であり、プレロードの量及び期間が十分でなかった

(ロ) 基礎地盤支持力が直立階段基礎部において局部的に減少している

(ハ) タンクの構造、強度についての配慮が不十分であり、油の温度の変化及び油面の高さの変動によって生ずる繰返し荷重に伴う疲労の検討がなされていたとは思えない

(ニ) 溶接施工及び管理が十分でない

(ホ) タンク建設における関係企業間の連携と責任体制が欠如している

(ヘ) タンクの保安点検等安全管理に問題がある

の諸点をあげている。いずれも前記二、三からみてうなずけるものである。

2  右の諸点のうち、(イ)は、ウェル・ポイント工法を併用したとはいえ圧密を要する地盤の軟弱さ及び深さと対比すると盛土載荷の量及び期間が不十分とするものである。圧密による地盤改良を図る場合には、土質工学上の知見に基づく一定の計算により事前載荷の量・方法及び期間が定められなければならないが、これは本件でも具体的に争われるところであるから、後述するところに譲る。水島においては、タンク水張り荷重による圧密効果を計算に入れて所定の圧密沈下を得ようとしたものであるが、このような場合、水張り時に地盤が荷重に耐える支持力を有しないと不等沈下をもたらし、タンク底部の一部に応力が異常に集中してアニュラ板又は底板の材料降伏点を超え、それらに塑性変形を生ぜしめることが起こりうる。甲二一及び四五号証によれば、昭和四五年四月八日、西部石油山口製油所の八万キロリットルタンクが、水張り中、アニュラ板の溶接部位で長さ二三メートルにわたる亀裂が生じ、工業用水約七万五〇〇〇キロリットルが流出した事故が発生し、事故原因は地盤の局部沈下と溶接欠陥(ピンホール)が考えられる旨発表された事実及び昭和四三年七月八日極東石油千葉製油所でも同様の事故が発生した事実が疎明されるが、こうした場合、脆性破壊にまで至らなくても、塑性変形したアニュラ板又は底板は事故に結びつきやすい。水張り前に所期の支持力が得られるべきプレロードが必要とされる所以である。

(ロ)は、タンク完成後に側板直下の基礎を掘削すれば、埋め戻してもタンク底部の締め固めが困難であり、基礎の支持力を失わせて、局部的な不等沈下を招くことを意味するが、掘削撤去時に水張りによる荷重が加わると、アニュラ板にとって危険な事態となることは当然である。これらは、タンク基礎、タンク本体、直立階段基礎の各工事が、連携を保たず、関連なく行なわれた結果であり、(ホ)の指摘もこれを指している。

(ハ)のタンクの構造、強度の問題は、前記三の5の(ハ)における側板下部及びアニュラ板の延性及び靱性の問題であると思われる。油の温度の変化については、油温が二〇度Cから九〇度Cに上昇した場合、アニュラ板にかかるタンク半径方向の応力は計算上約八キログラム/平方ミリメートル増加する(甲四五号証)との指摘があるが、この応力増加により材料の降伏点を超える応力が加わると、疲労寿命が短縮する関係にあるため、タンクの使用条件は設計応力に反映されていなければならないこととなる。

(ニ)については、前記三の2にみるところの、(A) 六パス溶接で溶接され、(B) 溶着量が大きく、隅肉溶接継手の断面形状が不規則で凸状であったこと、(C) 溶接継手のアニュラ板側趾端部に存在したアンダーカット気味の割れ状欠陥及びオーバーラップ気味のスラグ巻込み、(D) 溶接継手趾端部へのスラグ付着がある。(A)については、昭和四六年五月一二日API(アメリカ石油学会)の第三六回ミッドイヤー会議に、エッソ技術研究所から、常温においてタンク底板の延伸性及び荷重効率をよくするためには二ないし三パス溶接が望ましいと報告されており(甲二一、二七号証)、また、高張力鋼は溶接時の熱の影響によって脆化しやすいので(これを防ぐためにはバーナーで予熱をする。)、パス数が多いと脆化の危険が高い(甲一六、四五号証。証人小川進の証言)こととも関連している。(B)は、溶接部表面が滑らかでない場合には応力の集中をもたらしやすい(前掲小川証言)ためであり、(C)も応力集中の原因となるためである。これら(A)ないし(D)は、いずれも溶接の施工及び管理不良によるものである。

3  右のほかに、前記三の5における調査委員会の提言も当然と思われる事柄であって、右中間報告で指摘された点とともに、本件におけるタンクの安全性の検討のうえで、不可欠の視点を提供するものである。

というのも、原油からは常温において可燃性ガスが蒸発するうえ、その引火点は〇度C以下なので、タンクの破壊等によって原油流出が生じた場合に引火の危険を伴うからである。債権者らの主張によれば、無風時に本件タンク一基がその上面全面で炎上した場合の露出人体が接近できる限界距離(ただし、弁論の全趣旨と甲一三号証によれば、この受熱輻射量は、大気の影響がない場合に地表で受ける太陽からの最大輻射量にほぼ等しい。)はタンク側板から二五〇メートル、木造建物に対する延焼危険距離は一〇〇メートル、タンク四基を擁する一個の一次防油堤内全面が火災となった場合にはそれぞれ防油堤から九一〇メートルと三五〇メートルであり、債務者石油基地のタンクと最も近い位置に住居を有する勝連村字浜の債権者らにおいてすら、右一次防油堤内全面火災の事態が生じたとしても、その生命、身体又は健康に対する侵害の結果は生じないと考えられるが、水島事故の例にみるように、タンクの破壊による流出原油やタンカーの海上事故による流出原油が金武湾の奥深くに漂流拡散した場合には、原油の炎上によって債権者らのうちの一部の生命、身体又は健康に何らかの被害を生ずる可能性も絶無とはいえないからである。

この意味で、以下においては、本件タンクの破壊の原因たりうべき問題点及びタンカー事故を中心として、それらの事故による被害の蓋然性の有無及び程度を検討することとする。

第四本件CTS建設計画に関する問題点と債務者らの災害防止対策

一  暫定指針と改正消防法

調査委員会の水島事故原因調査報告における保安対策の提言に基づき、消防庁は、屋外タンク貯蔵所の技術上の規準に関する運用指針を定め、昭和五一年一月一六日消防予第四号「屋外タンク貯蔵所の規制に関する運用基準等について」(以下、運用基準という。)をもって、都道府県知事に対し、屋外タンク貯蔵所の位置、構造及び設備について危険物の規制に関する政省令が改正されるまでの間は、この指針に従って行政指導をするよう示達した。

右運用基準の内容は、1 位置に関する事項((1) 保安距離、(2) 保有空地)、2 設備に関する事項((1) 防油堤、(2) 危険物事業所から危険物の流出防止措置、(3) 消火設備)、3 代替措置に関する事項、4 経過期間、5 タンクの基礎に関する事項、6 タンクの構造に関する事項から成っているが、5、6のタンクの基礎及び構造に関しては同運用基準に別添の暫定指針(以下、暫定指針という。)によるものとしている。

その後、消防法は、昭和五〇年一二月一七日法律第八四号(昭和五一年政令第一二八号で同年六月一六日から施行)、昭和五一年五月二九日法律第三七号(昭和五一年政令第二三〇号で同年八月二八日から施行。但し、一部の改正規定については昭和五二年政令第九号で同年二月一五日から施行)をもって、調査委員会の提言を受けた抜本的改正がなされた。

右改正後の同法一〇条四項は、指定数量以上の危険物(原油は別表第四類第一石油類に該当し、一〇〇リットル以上がこれにあたる。)の貯蔵所の位置、構造及び設備の基準を政令で定めるものとし(同条同項については従前どおりで改正はない。)、「危険物の規制に関する政令」(以下、政令という。)も昭和五一年六月一五日政令第一五三号(附則一項で同年同月一六日から施行)、同五二年二月一日政令第一〇号(附則一項で同年同月一五日から施行。但し、一部の改正規定については施行年月日が異なる。)で消防法の内容となる貯蔵所の位置、構造及び設備の基準を定める改正をしたが、同政令はその内容の一部を自治省令で定めるところによるものとしており、これに応じて、「危険物の規制に関する規則」(以下、規則という。)も昭和五一年三月三一日自治省令第七号(附則一項で同年四月一日から施行)、同年六月一五日自治省令第一八号(附則一項で同年六月一六日から施行)、昭和五二年二月一〇日自治省令第二号(附則一項で同年二月一五日から施行)で所要の改正を経、右規則の内容の一部となる「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示」(以下、告示という。)も、昭和五一年三月三一日自治省告示第五二号、同年六月一五日自治省告示第一〇三号、昭和五二年二月一〇日自治省告示第二二号による逐次の改正をみている。

しかしながら、タンクの地盤、基礎並びに構造のうち鋼板の厚さ・規格及び強度に関する現行規制を定める政令一一条一項三号の二及び四号は、昭和五二年二月一五日までに設置の許可を受けたタンクについては適用されないので(昭和五二年二月一日政令第一〇号附則三項)、該当タンクに関しては、現行規制は設置許可の際の審査において用いられなかったのは勿論、法一四条の三の定める保安検査においてもこれによらず、改正前の例によることとされるのである。債務者石油基地の建設計画中のタンクは、昭和五一年六月二二日付設置許可にかかるものであるから、これが審査は、現行規制によらず、運用基準とこれが別添の暫定指針(タンクの基礎に関するものと構造に関するものとがある。以下において、基準に関しては前者を、構造に関しては後者をいう。)及び旧規制によったものであるが、本件タンクの安全性に関する以下の検討においては、事柄の性質上、設置計画が運用基準、暫定指針及び旧規制の基準を充たすか否かの判断にとどまらず、現行規制との関連についても論及することとする。

二  地盤及び基礎に関する問題

1  債権者らの主張

債権者らは、債務者石油基地の建設予定地の地盤及び基礎に関し、申請理由三のとおり問題点を指摘し、巨大タンクを支持するに足りない旨主張するが、その要点を摘記すると、(イ)埋立てが海底浚渫土によっているため軟弱で不均一であること、海底は粘土層で深度五〇メートルに至るまで岩盤がなく、島尻粘土層は液性限界値と自然含水比に開きがなく滑り面を形成していること、(ハ)各地質別の支持力は、一平方メートルあたり埋立粘土層一・四トン、沖積粘土層二・五トン、島尻粘土層三・六トンにすぎず、地盤改良をしても、盛土の高さは六メートルが限界であるため、埋立粘土層七・六トン、沖積粘土層八・七トン、島尻粘土層九・九トン程度にしか増強できず、水張り時の荷重一平方メートルあたり二四トンにも満たず、まして重量構造物の長期荷重に対する建築基準法上の安全率三を適用した場合の七四トンには到底達しないこと、(ニ)圧密時間についても厳密な地層区分に基づいて計算すると六一〇・一日が必要であり、債務者石油基地の計算による一二三日では不足であること、(ホ)島尻粘土層は債務者石油基地によると地盤改良の対象とされないが、島尻粘土層においても圧密沈下量が多いところで九〇センチメートルあると計算されること、(ヘ)債務者石油基地がタンク基礎に用いる予定の海底浚渫土は、透水性、強度、均質性のいずれをも満たさず、危険であること、に集約される。

2  地盤と債務者石油基地の改良計画及び基礎の設計

そこで、本件埋立地の地盤と債務者石油基地の地盤改良計画及びタンク基礎の設計について検討するに、乙三六号証の二、三、文書の体裁、内容及び弁論の全趣旨によりいずれも千代田化工の担当社員が作成したと認められる乙三二号証、三五号証の一ないし九、四〇号証、四四号証と右四〇、四四号証に引用された公刊の文献並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり疎明される(その他の証拠は該当判示部分で示す。また、自然科学上の経験則は、当然の前提として、考慮している。)。

(一) 債務者石油基地は、昭和五一年二月から三月にかけて、千代田化工をして、タンク建設予定地一基につき九地点(中心点一個所及び側板の位置に八個所)、合計一八九地点のボーリング調査をさせ、標準貫入試験及び土の各種物理試験及び力学試験を行なわしめた。

その結果のうち、本件埋立地の西側の端に一列をなして建設予定のTA一一からTA一六に至る六基につきそれぞれ中心点(ボーリング位置各一番)とボーリング位置各二番(北東側)及び各六番(南西側)の合計一八地点の結果から埋立地を宮城島側の端から平安座島側の端にかけて北東から南西にみた土層断面想定図(乙三六号証の二)、TA一四から東に一列をなして建設予定のTA二四、TA三五を経てTA四五に至る四基につきそれぞれ中心点とボーリング位置各八番(北西側)及び各四番(南東側)の合計一二地点の結果から埋立地を北西から南東にみた土層断面想定図(乙三六号証の三)、TA一四のボーリング地点九地点の土質調査表(柱状図。乙三五号証の一ないし九)、TA一四及び一六に関する室内試験結果総括表(乙四〇号証の別添資料二と四)が疎明資料として提出されている。

(二) 地層

本件埋立地の地層は、ODL(沖縄工事基準面)四メートル余の地表面から、旧海底面に等しいプラスマイナス〇メートル付近までの埋立層、旧海底面である砂礫層、旧海底面以下である沖積粘土層及びそれ以深の島尻粘土層に大別される。

埋立層は、砂礫、砂、粘土、の層から成り、砂礫層は、N値五(TA四五―四。TAのの次の数字はタンク番号、その次の数字はボーリング位置を示す。以下においても同様。)ないし一七(TA一六―一)程度で層厚は一ないし四(TA四五―四)メートル程度であるが、全く存在しない地点もあり、砂層はN値〇(TA一四―一)ないし一五(TA一一―一)程度で層厚は〇・七(TA一四―六)ないし四・五(TA一一―一)メートル程度であるが、全く存在しない地点もあり、粘土層はN値八程度の地点もあるが(TA一二―六、TA三五―四)、おおむね〇に近く、層厚は四・三メートル(TA三五―一)を最高としてまちまちであるが、全く存在しないところ(TA一一―一、TA一六―二)もある。

旧海底面である砂礫層は、N値八(TA一一―二)から三五(TA一四―一)程度で層厚は〇・八(TA一四―八)ないし二・五(TA三五―一、TA四五―八)メートル程度であるが、全く存在しないところもある。

旧海底面下の沖積粘土層は、細かくみると、礫混り粗砂(TA一四―六)粗砂(TA一四―八)、砂質シルト(TA一四―一)、シルト(TA一三、TA一四―二、TA三五)、粘土(TA一四―一)といった土層から成り、N値は〇(TA一三―二)から二〇以上(TA一一―二、TA一四―六)までみられるが、おおむねは一〇以下であり、層厚は、柱状図からみる限り、約五・四メートル(TA一三―一)を示す個所もあるが、その余は三メートル以下であり(ただ、後述するTA一四―八の点がある。)、全く存在しないとみえるところもある。

島尻粘土層は、柱状図からみる限り、浅いところではODLマイナス五メートル以浅(TA一一―一、二、六、TA一二―一、二、六、TA一四―一、二、四、六、八、TA一五―一、二、六、TA一六―一、二、六、TA一四―一、四、八、TA三五―一、八、TA四五―八)から始まり、残りはマイナス五ないし一〇メートルの間で始まっている。島尻層は、第三紀末期にかけて海底に砂や泥が堆積して生成されたもので、沖縄本島南部では厚さ一〇〇〇メートル以上にも達する。海底にあったため、相当に過圧密となっているが、第四紀の始め頃、その上部は海上に姿を現わし、風化、浸食を受ける機会があった。その原因が地穀変動で地盤が隆起した結果なのか、海水面の変動によるものかにつき見解が分かれているが、近時は氷河性海水面変動によるとの見解も有力である。

右風化、浸食のため島尻粘土層の上部には岩質が軟弱化した部分があり、そこではN値も低下する。前掲柱状図によると、島尻粘土層に区分されながら、N値が一〇前後にとどまるところが随所にみられる。これが島尻粘土層と沖積粘土層のいずれに属するかは、千代田化工がTA一四―八―三(タンク番号とボーリング位置の次の数字は試料採取位置を示し、地表面から数えて第三番目に採取したことを意味する。以下においても同様。)の地層区分を沖積粘土層として強度計算に用いながら(乙四〇号証参照)、柱状図(乙三六号証の三)の上では島尻粘土層に含めるといった混乱もあり、正確を保し難いが、島尻層の上部には、軟弱な部分もあることは一般に承認されているところとみてよい。しかし、柱状図上、N値二〇未満のところはどのボーリング地点でもマイナス一三メートル(TA四五―八)までで終了し、それ以深はN値三〇を超える堅硬な地盤が続いている。N値三〇以上が安定的に現われる深度は、TA一一―一でマイナス五メートル前後(以下、いずれも単位はメートル)、TA一一―二でマイナス一〇、TA一二―一でマイナス七、TA一二―六でマイナス七、TA一三―一でマイナス一〇、TA一三―六でマイナス八、TA一四―一でマイナス一三、TA一四―四でマイナス四、TA一四―六でマイナス八、TA一四―八でマイナス六、TA一五―二でマイナス二、TA一六―一でマイナス八、TA一六―六でマイナス三、TA二四―一でマイナス七、TA二四―四でマイナス七、TA二四―八でマイナス六、TA三五―一でマイナス五、TA三五―四でマイナス九、TA四五―一でマイナス五、TA四五―四マイナス一五(砂礫層を含む。)、TA四五―八でマイナス一四(砂礫層を含む。)である。

(三) 改良設計

債務者石油基地が計画中のタンクは、本体の自重が〇・四トン/平方メートル、使用時の液面の高さは最高位で一九・八メートル(これは暫定指針第一2により側板の高さ二二メートルから一〇パーセントを減じたものであるが、文書の体裁、内容及び弁論の全趣旨により千代田化工の担当社員が作成したと認められる乙四一号証によれば、本件タンクは、その浮屋根の構造からしても、側板の高さ一杯に液面を上げることは不可能である。)で、この重量は比重を一(原油の比重は〇・八ないし〇・九八八であるが、暫定指針第一3により安全率の計算においては一とすることとされ、告示四条の一八第二号においても同様である。)として一九・八トン/平方メートル、地盤の上に築く高さ一メートルの盛土の重量が一・八トン/平方メートルとすると、合計二二トン/平方メートルの荷重を支え得る地盤を必要とする。しかして、暫定指針は、地盤の支持力の安全率を定めず、改正前の消防法及びその付属法令においても右安全率は定められていなかったが、債務者石油基地及び千代田化工は、東京消防庁が採用した安全率一・四を確保することを前提として、本件地盤改良方法を定めた。右一・四の安全率を採用すると、地盤は三〇・八トン/平方メートルの極限支持力を有さなければならない。

ところで、島尻粘土層の極限支持力は、得られる資料からみる限り、一軸圧縮強度が八・〇三七(TA一六―六―二)、八・八一六(TA一六―四―二)、三・四七一(TA一六―八―二)各キログラム/平方センチメートルであり、粘着力は一軸圧縮強度の二分の一であるからそれぞれ四〇・一八、四四・〇八、一七・三五各トン/平方メートルとなり、極限支持力は建築基礎構造設計基準一四条の算定式(これは告示四条の一三のイの地盤の極限支持力計算式と同一である。)により二七七・二四二、三〇四・一五二、一一九・七一五各トン/平方メートル(粘性土において内部摩擦角を〇とすることにより粘着力の数値を六・九倍して簡便に算出できる。)となる。ちなみに、右各試料採取個所のN値は約三〇、約二〇、約一五ないし二〇程度であるとみられる。

債務者石油基地及び千代田化工がTA一四にモデルを求めた地盤改良方法の設計根拠は、島尻粘土層の粘着力の数値がTA一四の位置では得られないためこれを一〇トン/平方メートルと仮定し、極限支持力六九トン/平方メートルの数値を算出し、島尻粘土層がタンクの最終支持地盤たり得るものとし、埋立粘性土及び沖積粘性土につき、埋立粘性土の一軸圧縮強度〇・一二二ないし〇・三一三キログラム/平方センチメートルの中間域にあるTA一四―六―二の〇・一八八によればタンクを支持するに足りず(粘着力は〇・九四トン/平方メートル、極限支持力は六・四八六トン/平方メートル)、沖積粘性土についてもTA一四―八―三の一軸圧縮強度〇・三一六キログラム/平方メートルによれば同様なので(粘着力は一・五八トン/平方メートル、極限支持力は一〇・九〇二トン/平方メートル)、いずれも地盤改良の必要ありとし、建築基礎構造設計基準一五条の算定式により、TA一四の各ボーリング地点につき、別表(二)の上の表のとおり、埋立砂質土、埋立粘性土、海底砂質土、沖積粘性土ごとの沈下量を算出し、圧密時間の算定については、土質工学で用いられる算定式(別紙計算式(二)に記載のもの)に基づき、埋立粘性土につき、別表(三)の上の表のとおり、同表に記載の圧密係数を用いて、TA一四―一(層厚二・二〇メートル)、TA一四―六(層厚三・八〇メートル)において圧密度九〇パーセントに達する所要日数を二四・一日及び七一・八日と算出し(別表(三)の上の表において層厚が二分の一の数字となっているのは、パックド・ドレーンを用いる場合、両面排水の効果があり、圧密所要時間が二分の一に短縮されるため)、沖積粘性土につき、同じ表のとおり、TA一四―二(層厚二・六五メートル)において圧密度九〇パーセントに達する所要日数を一一一・八日と算出し(ただし、ここでは層厚を二分の一としていない。)、タンク建設後の許容残存沈下量を側板下で二〇センチメートル以下とすることを前提とし、盛土一段階における圧密度八〇パーセントに一ヵ月前後で達し、最終載荷において圧密度九〇パーセントに達せしめるように、パックド・ドレーン併用のプレロードを用いることとし、パックド・ドレーンは長さ五ないし一〇メートル、ドレーンは一・二メートル四方で間隔は二メートル、杭径は一二〇ミリメートル、範囲は側板より外側八・六メートルまでとし、盛土高さ八メートルを第一段階三五日(二・四メートル)、第二段階三五日(五・四メートル)、第三段階五三日(八メートル)に段階載荷することにより、一二三日でTA一四の埋立粘性土の粘着力を四・五トン/平方メートル(圧密理論によれば、粘性土においては一般に載荷荷重の四分の一だけ粘着力が増加するとされており、初期粘着力〇・九トン/平方メートルに盛土載荷荷重として一・八トンに八を乗じたものの四分の一である増加粘着力三・六トン/平方メートルを加えたもの)、極限支持力三一トン/平方メートルに改良可能であり、タンク建設後の残存沈下量は予想全沈下量の一〇パーセント以内であるから、別表(二)の上の表により、その量は二ないし七センチメートル以内であるとするのである。

なお、砂質土に対しては、バイブロハンマー(振動杭打機)でパックド・ドレーンを打設する際の振動エネルギーを用いて締め固め均一化を計るとしている。

また、基礎については、地表面以深二メートルの範囲は砂質土の層が存在することを確認し、砂質土が存在しない場合は砂質土と置換し、十分締め固め、側板下には天端径二メートル、下端径四メートル、深さ一・六メートルの砕石リングを砂質土層のまき出しに合わせて施工し、基礎は海底浚渫土のうちの砂質土で高さ一メートル(タンク中心部においては一・四メートル)とするものとしている。

3  債権者らの指摘に対する判断

右2で述べたところを基礎とし、更に右2に掲げた各証拠を参照して、前記1の債権者らの主張及びそれに副う甲四三号証、証人生越忠、同小川進の各証言を、以下において検討する。

(一) 島尻粘土層

債権者らは、島尻粘土層が、本件タンクの支持地盤たり得ないと主張する。

しかしながら、島尻粘土層がある深度以深においてN値三〇以上の過圧密で堅硬な地盤をなし、その極限支持力がN値一五ないし二〇程度のところでも満油時の本件タンクによる荷重を支持するに十分であることは、前記2の(二)及び(三)に判示したとおりであって、液性限界値と自然含水比に開きがないとの主張も、乙四〇号証の別添資料2及び4に照らすと、明らかに理由がない。

もっとも、島尻粘土層の上部には、風化、浸食により軟弱化し、N値一〇前後と低い部分が一部に存在することは前叙のとおりであって、この部分ではタンク満油時の荷重により沈下を生ずる可能性も予測しなければならないが、地表面からの深度一〇メートル以浅のものは地盤改良工事の対象とすることが可能であり、深度の深いものは土被り圧が大きく、土被り圧が大きいほど沈下量は小さくなる関係にあるし、昭和五一年二、三月の土質調査後今日までの年月の経過による圧密効果も存在するうえ、別表(二)における沖積粘土層の想定全沈下量に徴してもその全沈下量自体ごく小さなものであることが想定できるから、かかる部分の存在によってタンク建設後危険な不等沈下をもたらすとの見込みは乏しいとみられる。

(二) 債権者らの1の(ハ)の主張について

債権者らが別表(一)の下の表において主張するところの、一平方メートルあたり埋立粘土層一・四トン、沖積粘土層二・五トン、島尻粘土層三・六トンの許容支持力は、甲四三号証及び証人生越忠の証言によれば、埋立粘土層につきTA一四―四―二の一軸圧縮強度〇・一二二キログラム/平方センチメートルに基づき粘着力〇・六一トン/平方メートルを、沖積粘土層につきTA一四―一―二の一軸圧縮強度〇・二一六キログラム/平方センチメートルに基づき粘着力一・〇八トン/平方メートルを、島尻粘土層につきTA一四―八―三の一軸圧縮強度〇・三一六キログラム/平方センチメートルに基づき粘着力一・五八トン/平方メートルをそれぞれ算出し、その極限支持力一平方メートルあたり四・二〇九トン、七・四五二トン、一〇・九〇二トンに対する許容支持力を、安全率を三で除することにより導いたものであることが知られる。これに対して、債務者石油基地及び千代田化工が、埋立粘土層につきTA一四―六―二、沖積粘土層につきTA一四―八―三の各数値に基づき極限支持力を算出したことに前叙2(三)のとおりであり、且つ別表(一)の上の表の各許容支持力は安全率を一・四として算出したものであることも、さきの判示から明らかである。

ところで、債権者らが沖積粘土層に関して採用したTA一四―一―二の資料は、乙三五号証の一、三六号証の二、三によって明らかなとおり、ODLプラスマイナス〇メートル付近の埋立粘性土(旧海底面の砂礫層はその下にある。)のそれであり、また、島尻粘土層に関して採用したTA一四―八―三の資料が沖積粘性土のそれであることは前述したから、右両層に関して債権者らの主張するところはその前提に誤りがあるわけであるが、埋立粘土層に関して浮かび上がる問題は、支持力の算定につき、最低値をとるべきか、最低値及び最高値を除外して中間域の数値をとるべきか、また、安全率はいくらとすべきかの点であり、これらは、沖積粘土層や島尻粘土層の支持力計算にも通ずる問題である。

この問題については、土質工学における実際的な見解として、現実の地盤は複雑で、試料採取法や試験法に非常に特定の方法を必要とするので設計値は例外的な場合にしか正しくなく、大部分の仕事では近似的な予想が必要であるにすぎない、とか、現在のところは多数の圧密データを平均的に使用するのが妥当である、とされ、工事中に土の状態を観察することの重要性と、これによって得た結果に従って設計を修正することの必要性が強調されていること、(この点は前叙調査委員会の指摘にもみられるとおりである。)、更に、テルツアーギの圧密理論は一次元での圧密を前提とするものであるが、現実の地盤の圧密は三次元のものであり、且つ、改良を必要とする土層の上又は下に透水性のよい地層が存在する場合には、圧密の速度が促進されること、上下方向への排水より水平方向への排水の方が速やかであるとされることを考慮すると、債務者石油基地らの最低値ではない数値を用いる方法(TA一四についていえば、埋立粘性土の一軸圧縮強度の平均値は〇・二六七キログラム/平方センチメートルであるから、中間域の数値とはいえ、平均値と最低値の中間域の数値といえる。)も、圧密による地盤改良工事中の十分な沈下量観測とこれによる載荷重量及び載荷期間の調整を伴う限り、不合理なものとして排斥することは困難であり、また、支持力の安全率については、水島事故後に新設された現行規制上、政令一一条一項三号の二、規則二〇条の二第二項二号ロ(1)及び告示四条の五により「一・五以上」と定められたもので(本件タンクの建設許可規準となった運用基準と暫定指針においては支持力の安全率についての定めがなかったことは前述のとおりであり、また、当時の法律上の規制としては、昭和五〇年七月政令第二一五号による改正後の「危険物の規制に関する政令」一一条において、地盤の支持力に関しては何らの規定が存在しなかった。)、右の規制が建築基準法による建築物に対する規制の安全率三より低くても、専門家の検討を経て採用された規準であるから、不合理であるとする根拠に乏しいし、本件タンクのように可撓性基礎を用い、水張り試験の結果及び操油開始後の保安点検によってはタンクをリフトアップしての基礎修正が予定されている構造物にあっては、一般建築物とは異なる面があるとも考えられる。

かくして、右の問題については、債務者石油基地らの支持力算定方法を排斥すべきものとはなし難い。

なお、生越証人は、右の安全率が水張りテスト前に確保されていなければならないと供述するところ、規則二〇条の二第一項及び第二項二号ロ(1)の規定の趣旨もそのように理解されるのであるが、本件に右規定の適用がないことは再三述べたところであり、実際上水張り荷重によって圧密を生ずることは勿論であるから、現実の地盤が粘着力の低い粘性土ばかりではないうえ荷重の調整(増加)及び水張りにより安全率一・五以上を確保できる旨の債務者石油基地らの主張は、理由のないものとはいえない。

しかして、債権者らは、各地層につき、限度一杯の盛土六メートルによる地盤改良をしても、一平方メートルあたりの許容支持力が、埋立粘土層七・六トン、沖積粘土層八・七トン、島尻粘土層九・九トン程度にしか増強されないと主張し、生越証言もこれに同調するのであるが、盛土は三段階の段階的載荷により行なうのであり、土質工学上、粘性土の粘着力は定量的には載荷荷重の三分の一ないし四分の一(一般に四分の一を用いる。)だけ増加するとされ、さきに判示したとおり、増加粘着力を六・九倍した数値が極限支持力の増加分となるから、各段階において許容支持力の範囲一杯の載荷をするとすれば、別表(一)の上の表における最軟弱の埋立粘土層についてみると、許容支持力(安全率を一・五とする。)四トン/平方メートルの範囲内で二・二メートル(比重を一・八とする。)の第一段階の盛土をすれば極限支持力において六・八三一トン/平方メートル、許容支持力において四・五五四トン/平方メートルの増加をみ、初期許容支持力との和八・五五四トン/平方メートルの範囲内で四・七メートルを付加する第二段階の盛土をすれば極限支持力において一四・五九三トン/平方メートル、許容支持力において九・七二九トン/平方メートルの増加をみ、かくして第三段階の盛土は許容支持力一八・二八三トン/平方メートルの範囲内で更に一〇・一五メートルを載荷する盛土が可能となり、第三段階の載荷において目標とする許容支持力二二トン/平方メートル、極限支持力三一トン/平方メートル又は三三トン/平方メートルを優に超える粘着力の増加が、計算上得られることとなる。もっとも、債務者石油基地及び千代田化工は、第一、二段の載荷を圧密度八〇パーセントで終了し、最終段階の載荷期間を長くして、圧密度九〇パーセントに至らしめるというのであり、右の単純計算とは異なる過程を経ることになるが、盛土六メートルを限界とする債権者らの主張は、初期粘着力を〇・六一トン/平方メートルとし、安全率を三としての初期許容支持力一・四トン/平方メートルを出発点とするものであり、その前提において採用し難いものといわなければならない。

(三) 圧密時間

債権者らは、厳密な地層区分に基づいて計算すると、別表(三)の下の表のとおりTA一四―一に関する圧密時間が六一〇・一日必要であると主張し、生越証人は、圧密時間の計算に際し、その算定の基礎となる圧密係数は当該試料採取位置のそれを使用すべきであり、埋立粘土層、沖積粘土層といった区分ごとに一律の圧密係数を適用する債務者石油基地及び千代田化工の方法は不当である旨供述する。

右六一〇・一日の計算根拠は、TA一四―一の位置における埋立粘性土の圧密時間一四七・〇日に沖積粘性土の圧密時間四六三・一日を合算したものであるが、地層が、その所在深度が浅いか深いかの違いだけで、他の条件はすべて同一であると仮定した場合に、地表に近い部分ほど圧密が早く進む傾向にあることは、荷重による地中増加応力係数表(乙四〇号証の別添資料5)によってうかがえるとしても、だからといって、圧密を要する二つの層のうち上部の層において圧密が進行している間下部の層に荷重が伝わらないというものではなく、それぞれの層の圧密に要する時間を合算すべきものとは思われない。そして、債権者らはTA一四―一の埋立粘性土の層厚を三・九五メートルとするけれども、右はシルト質微細砂及びシルト質細砂の層厚一・六五メートルと砂質シルト及びシルトの層厚二・二〇メートルを合算したものであり(したがって、三・九五は三・八五の誤り)、埋立粘性土として論ずる限り層厚は二・二〇メートルとなるうえ、パックド・ドレーン併用の場合は両面排水となり、層厚は二分の一の数値を用いれば足りるので、債権者らの計算とは著しく違ったものになる。更に、沖積粘性土五・四〇メートルの点につき、TA一四―一のODLマイナス〇・九九メートルから同二・四九メートルの間にある海底砂礫層の下は、地表面からの深度七メートル以下一メートルごとのN値が、九、一〇、九、一三、一一と変化するところの、砂質シルト(層厚〇・二五メートル)、粘土(同〇・五〇メートル)、礫混り砂質粘土(同一・九〇メートル)、礫混り砂質粘土(同二・二〇メートル)であり、その下は明らかに島尻粘土層であるとみられるので、右のどの範囲の層厚を合算したものか明らかでなく、両面排水の問題もさることながら、柱状図に記載された土質観察の結果やN値との比較対照をすると、債権者らが沖積粘土層の趣旨で海底粘土層と主張する地層が存在するかは疑わしいので(債務者石油基地らはTA一四―一における沖積粘土層の層厚をゼロメートルとする。土層断面想定図においてもこの点は同様である。)、この点については論ずるまでもない。

また、生越証言の指摘に関しては、債務者石油基地及び千代田化工は、圧密時間算出の基礎となる圧密係数の数値につき、埋立粘土層のそれとして〇・二九六平方センチメートル/秒を用いており、右数値は埋立粘性土として得られた九個の圧密係数のうち、最上位から二個及び最下位から一個の数値を除外した残り六個の数値を単純平均して得たものであることが明らかであるが、このような手法への批判に対してはさきに3(二)において述べたところである。

(四) 圧密の非可逆性

生越証人は、圧密をしても、水分の浸透により支持力は失われるとし、本件工事に伴う地盤改良は埋立地の西半分においてなされるが、東半分は放置されるため、また、西半分においても盛土の範囲はタンク建設予定位置の側板外側一定範囲にとどまり、その外側に改良されない地盤が残るため、圧密の効果は失われると指摘する。

しかし、圧密理論は、圧密された粘性土の垂直荷重を除去しても膨張量はほとんどなく密度増加が残ることを前提とするものであり、圧密の非可逆性は今日の土質工学における常識であって、同証人の見解に従えば、地下水位以深においては圧密による支持力の増加は期待し得ないこととなるが、このような見解は一般に承認されたものではない。

(五) 圧密期間の扱い方

また、証人小川進は、第一、二段載荷期間は圧密日数の計算上二分の一を減じたものを載荷日数とすべきこと、また、暫定指針においてはプレロードによる圧密期間は原則として最低三か月以上とすることを要求しているが、その趣旨は、最終段階の載荷後三か月間放置すべきことに外ならないことを供述する。

右の意見による方法が基礎の安全性確保に資するものであることは明らかであるが、これまでに述べたところから明らかなように、各段階における載荷重量は、改良の目的たる地盤がせん断破壊を起こさないよう、許容支持力の範囲内で決定されるべきであるとともに、その荷重が先行荷重を上廻る限り一定の支持力増加の効果をもたらすものであり、途中載荷日数を二分の一に減ずることにはなんの根拠もない。

さらに、暫定指針は同証人のいうとおりの定めをしているけれども、その文言上、三か月は必ずしも最終載荷期間に限定されるものとは解されないし、本件におけるように、タンクの具体的安全性が問題とされる場合には、もっぱら、地盤改良設計上、タンクを支持するに足る支持力を有する地盤への改良が可能かどうかが問題であることはいうまでもない。

4  結論

以上を総合すると、本件埋立地は、埋立層において土質が不均一且つ軟弱であり、埋立粘土層及び沖積粘土層において地盤改良を図る必要があり、島尻粘土層の一部にも地盤改良を要すると思われる部分が存在するのであるが、島尻粘土層は基本的には本件タンクを支持するに足る地盤であり、債務者石油基地及び千代田化工の地盤改良設計は、土質工学の立場からみて根拠のないものとはいえず、債務者石油基地らは、実際の施工にあたり、沈下量等の観測及び調査を行なって地盤の動向を把握し(この点は、暫定指針第3の4においても、プレロード又は盛土による沈下量は、沈下板により継続的に測定することが義務づけられているが、これはさきにも述べたとおり、土質工学上、施工に当っての常識である。)その結果によっては見直しを行なって所期の目標を満足する基礎を完成するものとしているし、地表からの深度一〇メートル以深の島尻粘土層において改良を要する部分があるとしても、これによる沈下量は僅かで、タンクに有害な局部不等沈下をもたらすとは認め難い。

三  タンクの構造等に関する問題

1  債権者らの主張

債権者らは、申請理由四及び一一のとおり、本件タンクの構造に関する問題点を指摘し、タンク破壊の危険があると主張するが、その要点は、(イ)アニュラ板の板厚不足により半径方向の応力が降伏点を超えている例があり、JISB八五〇一ではアニュラ板の板厚はその強度がそこにかかる許容応力と同一であればよいとされるが、許容応力は降伏点の三分の二又は引張り強度の八分の三のいずれか小さい方以内になるよう設計すべきであること、(ロ)側板の強度についてもこれと同様であること、(ハ)鋼板の腐食に伴う強度低下の問題、(ニ)水島事故の例にみるように溶接の欠陥がアニュラ板の破断につながることにある。

2  タンク本体の設計

そこで、本件タンクの構造に関する設計についてみると、文書の体裁、内容及び弁論の全趣旨により千代田化工の担当社員が作成したと認められる乙四一号証及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり疎明される。

(一) 本件タンクは、風速毎秒八〇メートル、水平震度〇・三に耐えられるように設計されている。

右風速は、那覇市における過去の台風時の瞬間最大風速毎秒七三・六メートル(昭和三一年九月八日)を参考としたものであり、毎秒八〇メートルの風圧はほぼ四〇〇キログラム/平方メートルの圧力に相当する。これは、原油の比重を一と仮定した場合、タンク内の油面から〇・四メートルの深度において側板が受ける液圧と釣と合っている。したがって、風圧による側板の座屈の有無は、タンクが空である場合を仮定して検討を加えることになるが、債務者石油基地及び千代田化工は、JISB八五〇一「石油貯槽の構造(全溶接製)」の理論式に従い側板の理論座屈限界長を算出し、これに基づき側板最高位置から下に一メートル、二・九メートル、四・八メートル、六・八四メートルの位置に合計四段のウインドガーダーを設置することとしている。

耐風圧構造に関する法令の規定は、昭和五〇年七月政令二一五号による改正後の政令一一条五号及び昭和四九年六月省令第一七号による改正後の規則二一条に定められているが、そこでは、実質的には風荷重の計算方法が定められているにすぎず、本件タンクのように海岸で強風を受けるおそれのある場所に設置するものについては二一〇キログラム/平方メートルとされている。本件にはその後の改正後の政令一一条一項五号、規則二〇条の四、告示四条の一九第一項が適用されるようであるが、これによっても右の点は変りがなく、ただ、告示四条の一九第二項において、ウインドガーダーを設ける場合の断面係数等の計算方法が付加されたにすぎない。なお、本件に適用される政令一一条一項五号、規則二〇条の四第二項二号によれば、主荷重及び風荷重の組合せによって生ずる応力度は、材料の規格最小降伏点又は〇・二パーセント耐力の九〇パーセント以下であることが必要であるが、高張力鋼HW五〇の規格最小降伏点は五〇キログラム/平方ミリメートルであり、問題はない。

設計水平震度を〇・三としたのは、旧規制の規則二一条二項で、地震動による慣性力はタンクの自重とこれに貯蔵する危険物の重量との和に設計水平震度〇・三を乗じた積以上とするとしたものに準拠したものであるが、本件タンクには現行法令が適用され、政令一一条一項五号、規則二一条により告示四条の二〇第二項一号の算式に従うことになるが、地域別補正係数は同号イの地域区分上沖縄本島に適用される〇・七〇(C地域)、地盤別補正係数は同号ロで最悪の一・六〇(四種地盤)、タンクの固有周期を考慮した応答倍率は本件タンクの場合一一秒として一・〇を採用して、〇・一六八と算出される。したがって、債務者石油基地らが使用した設計水平震度〇・三は十分安全なものといえる(ちなみに甲三七及び四三号証によれば、関東大震災をもたらした地震は水平震度〇・二であった。)。右設計水平震度〇・三の条件のもとで液面の動揺によりタンクに生ずる応力は、最大となる側板とアニュラ板との継手部近傍において、側板に対し約二四キログラム/平方ミリメートル、アニュラ板に対し約三三キログラム/平方ミリメートルであり、使用材料高張力鋼HW五〇の降伏点五〇キログラム/平方ミリメートル、設計応力五度Cで四五・〇度Cで三六各キログラム/平方ミリメートルの範囲内にある。

なお、法令上、主荷重と地震動による従荷重によって生ずる応力度が材料の規格最小降伏点又は〇・二パーセント耐力の九〇パーセント以下であることが必要な点は、風荷重についてと同様となっている。

(二) 設計上、側板は、最上段の一一ミリメートルから最下段の三五ないし四三ミリメートルまで各段ごとに板厚を増しており、アニュラ板は高張力鋼HW五〇で板厚二〇ミリメートル、底板は一般構造用圧延鋼材SS四一で板厚一二ミリメートルである。

鋼板の厚さ・規格及び強度に関する政令一一条一項四号及びこれに基づく規則、告示が本件タンクに適用されないことは第四の一で述べたが、暫定指針第一の3ないし5は側板、アニュラ板及び底板の厚さを定めており、本件タンクについていうと、側板は最下段において三四・〇三九ミリメートルに腐れ代を加えたもの以上、アニュラ板は二〇ミリメートル以上、底板は一〇ミリメートル以上となる。なお、現行規制の告示四条の一七によれば、側板は板厚(以下同じ)一〇ミリメートル以上、アニュラ板は二一ミリメートル以上、底板は一二ミリメートル以上とされるが、使用材料は規則二〇条の五によりアニュラ板については溶接構造用圧延鋼材SM四一C又はSM五〇Cとされ、側板及び底板では一般構造用圧延鋼材SS四一その他とされる。右SM四一C、SM五〇、SS四一の材料の強度は高張力鋼HW五〇より劣り、引張り強度において、前者は四一ないし五二キログラム/平方ミリメートルであるのに対し、後者は六二ないし七五キログラム/平方ミリメートルである(甲一六号証)。したがって、高張力鋼HW五〇を用いる本件タンクのアニュラ板板厚が現行規準より少ないからといって、その強度が現行規準による場合より劣るとはいえないわけである。

(三) 腐食に関して、債務者石油基地は、基礎の上面をアスファルトで掩い、側板は適宜塗替えを行なって、腐食を防ぐと主張し、前出乙三二号証によれば、本件タンク基礎の上面には厚さ五〇ミリメートルのアスファルトの層を設ける設計であることが疎明される。

この点に関する法令上の規制は、旧規制の規則二一条の二と本件に適用される現行規制の政令一一条一項七号、七号の二、規則二一条の二とは同一であり、底板の下にアスファルトサンド等の防食材料を敷くか又は底板に電気防食の措置を講ずることとなっており、右の設計は右規制に適合するものである。

(四) 溶接について、債務者石油基地では水張り試験の前後に二回の磁粉探傷試験を行ない、割れ等の溶接欠陥のないことを確認する計画である。

この点につき、現行規制の政令一一条一項四号の二、規則二〇条の六ないし九では、側板とアニュラ板、アニュラ板とアニュラ板、アニュラ板と底板、底板と底板との溶接継手には磁粉探傷試験(それが困難なときは浸透探傷試験)を行ない、割れがないこと、アンダーカットはアニュラ板と底板及び底板と底板との溶接継手では〇・四ミリメートル以下、その他の部分の溶接継手では存在しないこと等の基準に適合しなければならないと定めている。

3  債権者らの指摘に対する判断

進んで、債権者らの指摘する点を疎明資料とあわせて検討する。

(一) 甲四五号証及び証人小川進の証言においては、側板最下段とアニュラ板の板厚は等しくないと安全ではなく、本件では側板最下段対アニュラ板の板厚の比が一以下の〇・五七であるので、アニュラ板にかかる応力はその材料降伏点を超えているとし、この見解は鵜戸口教授の提唱するところであるとする。

しかしながら、水島事故後の暫定指針においても、現行規制においても、側板最下段とアニュラ板の板厚を同一とすることにはなっていないのであって、右の見解が少数説であり、タンクの構造基準改訂の際に主張されたが採用に至らなかったものであることは小川証言自体によって明らかである。

なお、許容応力の設定に関しては、暫定指針においても、側板に関し規格に定める降伏点又は耐力の六〇パーセントとすることとされ、現行規制においても、側板、アニュラ板、底板の最小厚さの規準のほかに、主荷重によって生ずる応力度は材料の規格最小降伏点又は〇・二パーセント耐力の六〇パーセント以下であることとの規準を満たさなければならない(規則二〇条の四第二項)のであって、降伏点を許容応力としてよいとするものではないことを指摘しておく。

次に、同じ証拠及び甲二五号証によれば、既設のタンクにおいては、アニュラ板の側板最下段との溶接継手部近傍においてタンクの半径方向にかかる応力が降伏点を超えている例があるとされ、千代田化工が昭和四八年日本石油喜入基地で操業中のタンクに関して行なった水張り実験では、水位一三メートル(容量一五万キロリットルで高さ二二・六メートルのタンクのため満水時の約五分の三の高さ)でアニュラ板のタンク半径方向にかかる応力が降伏点を超え、満水時には塑性変形をきたした事実が疎明されるが、この例では側板最下部の板厚は四四ミリメートル、アニュラ板の板厚は一六ミリメートル(いずれもHT六〇)で、その比は〇・三六であり、右タンクでは満水時に降伏点となるように設計されていたとの疎明資料(甲四五号証)に照らしても、右の結果をもって本件に類推するのは適当ではない。そして、弁論の全趣旨により成立を認める甲三五号証の三によれば、三菱石油水島製油所における事故タンクと同一仕様のT二七一タンクにおける水張り試験の結果では、アニュラ板の半径方向曲げ応力の測定の結果、鉛直階段近傍では他の基礎健全部に比して三ないし四倍の応力が生じ、隅肉溶接トウ部から二ミリメートルの測点では材料降伏点に近いか或いはこれを超える応力値を示していたが、基礎健全部では液圧時における理論解とほぼ一致した値を示した事実が疎明され、タンク底面に生ずる応力がタンク基礎の支持力の状態、底面の溶接状態などによって設計値と異なる値を示すのは当然であるから、設計値をもってタンクの安全性を過信すべきでないことは勿論であるが、問題は設計にではなく、地盤改良及び基礎の施工と溶接の施工の良否にあるものというべきである。

(二) 証人小川進は、耐震設計が空虚であると指摘し、その理由として、設計上は水平震度が考慮されているだけで鉛直震度が考慮されていないこと、地震の波動がタンク固有の周期と一致したときに生ずる共振現象でタンク事故を生ずる危険があること、N値一五までの砂層は流砂現象を起こすことがあり、新潟地震におけるタンク事故はこれによるものであること、また、流砂現象は伊豆沖地震においてシルトにも生じたこと、盛土が円孤滑りにより不等沈下するおそれがあることを挙げる。

しかし、告示四条の二〇第二項二号は、設計鉛直震度は設計水平震度の二分の一とすることを規定しており、前記2(一)に判示したところからすると格別危険が存在するとはみえない。

流砂現象は、水を飽和している砂層が衝撃又は振動により液状化し、流動化する現象で、タンクにとってきわめて危険であるが、N値五以下の砂層を条件とする見解もある。

また、共振現象の解決法は、入力地震波形によって大幅に異なり、地震の振幅、繰返し回数をいかに想定するかが重要であるとされるが(甲二五号証)、現在のところ万全の解決策があるとはみえない。

このように、地震がタンクに与える影響には有害の程度の大きいものがあるが、さきに示した告示四条の二〇においても、沖縄本島は地域区分Cに属し、地域別補正係数も最も小なる地域に属するのであって、大地震が生起する可能性は乏しいものとみられる。甲四三号証によれば、東京天文台編さんの「理科年表」第五一冊(昭和五二年一二月)に記載された被害地震記録において、琉球列島は日本の他の諸地域に比して被害地震が非常に少なく、一六六四年のものを初めとして八重山群島から奄美大島に至る間の一四個の記録において、大地震は宮古島近海及び喜界島近海に集中しており、沖縄本島に関する記載として明白なのは一九〇九年(明治四二年)に那覇及び首里で家屋半壊三、死者一名を生じたもの(マグニチュードは不明)がある程度にすぎず、学者にも、奄美―喜界付近(トカラ海峡部)及び宮古島付近には巨大地震がほぼ二〇〇年ごとに起こると述べる者があるが、沖縄本島付近に関しては言及されていないことが疎明される。

そうすると、寿命一五年ないし二〇年とされる本件タンクに関して、その使用期間中にタンクに致命的な結果を与えるような地震が生起する可能性はきわめて乏しいものというべきである。

(三) 債権者らは、沖縄地方が高温多湿であり、腐食しやすい条件にあると主張し、証人小川進も、応力が作用していると腐食の進行が早く、「応力腐食割れ」を生ずる旨証言する。

右債権者らの主張はそのとおりであるが、この問題は保守管理の問題に帰着するので、後に述べる。

債権者らは、溶接の欠陥がアニュラ板の破断につながることを主張する。

この点も、水島事故の例にみるとおり、タンク底面の破断の一つの原因たりうるわけであるが、この防止の成否は、施工検査にあり、災害防止対策上の問題でもあるので、後に述べる。

四  その他の事故原因及び被害原因

1  海上事故

債権者らは、申請理由五1、2のとおり、巨大タンカー航行に伴う危険として、巨大タンカーは、操縦性能において、旋回性能はよいが針路安定性と追従性に劣り、金武湾口の航路幅が狭いこともあって衝突や座礁の危険があり、原油の流出から火災事故に至る可能性があると指摘する。

よって、検討するに、甲九、一〇、三七号証によれば、巨大タンカーは、慣性が大きいため停止距離が長く、吃水が深いため余裕水深が少ないと舵利きが悪くなり、概して操船性能がよくないこと、ブリッジが最後尾におかれるため、前方に死角が生じ、四〇万トンタンカーではへさきの前方六〇〇メートルが死角に入ること、タンカーのトン数別にみた船舶数に対する事故件数の割合は、二〇万トンまでは大差がないのに、これを超えると五倍に増大すること、金武湾の湾口は幅三〇〇〇メートルであるが、北方にキャンプ・シュワーブ区域、南東方に水深一〇メートルのメングイ礁があるため、この両者に挾まれた八〇〇メートルが航路として残されるにすぎないことが疎明されるけれども、一方、甲一、九、一〇、三七号証、乙四三号証によれば、金武湾は、別紙図面(一)のとおり、勝連半島から北東に連なる海中道路、平安座島、宮城島、伊計島によって囲まれた約一万八〇〇〇ヘクタール(五三〇〇万坪)の海域で、東京湾の約五分の一の面積を有し、湾への進入口は北東に位置すること、湾内の潮流速度は大部分が〇・二ないし〇・三ノット程度で非常に緩やかであること、右の地理的状況から、金武湾内では外洋からの深海波の波高が著しく減衰し、約三〇パーセント程度になること、巨大タンカーに必要な水深は、三〇万トンタンカーで二七メートル(最大吃水二四メートル)、五〇万トンタンカーで三三メートル(最大吃水二七メートル)必要であるが、金武湾においてタンカーの航路として予定される水域は水深五〇メートル台から四〇メートル台であり、債務者石油基地のシーバース付近において水深約三三メートルが確保されていること、ターニングベイスンは船長の二倍以上で六〇〇メートル以上が必要であるが、その面積は確保できること、船舶の航行頻度についてみると、昭和五一年中に金武湾へ入港した二〇トン以上の船舶数は八一七隻であり、これに対して債務者両名の本件タンク二五基が建設され操業を開始したときの一次船入港回数は、全国的なCTS石油タンクの回転率が石油備蓄の目標日数を六〇日とした場合七・〇回転/年、九〇日とした場合三・五回転/年で、平均値をとると約五回転/年であるため、巨大タンカーの平均的トン数を三三万トンと想定すると、一基につき年一・五回、二五基で年三七・五回にすぎず、これに二次船の入港回数を一次船の二ないし三倍と仮定しても、タンカーと一般船を合わせた総航行頻度はいうに足りないこと、タンカー事故を態様別にみたときその八割以上が衝突と乗揚げであるが、タンカー一航海あたりの衝突又は乗揚げ事故の確率は一万分の二とされ、したがって入出港一回あたりの確率は一万分の一となるが、右にみた本件タンク二五基建設操業後の一、二次船年間予想入港回数は一一二・五回ないし一五〇回程度で、確率はきわめて低いこと、債務者石油基地は、操業開始後は、中城港長の指導のもとに、債務者ターミナルと共同して金武湾内のタンカーの航行及び操船を一元的に管理する機構を設け、湾内において同時に二隻以上のタンカーの運航を行なわないことにし、港内情勢・気象・海象・荷役状況の情報をタンカーに知らせて事故防止を図り、湾口伊計島北東約二・五浬の地点でシーバースマスターを乗船させ操船援助に当るとともに、タグボートに先導警戒させ、シーバースへの着桟はタグボート二ないし六隻により行なう計画であること、シーバース周囲には、圧縮空気の送気により浮上し排気により海底に沈下する浮沈式のオイルフェンスを固定設置するほか、所要の長さの可搬式オイルフェンスを(タグボートともども)常置し、シーバース上に泡モニターノズル・ウォーターカーテンノズル・消火栓ノズルとこれに必要な泡原液・消火ポンプ等を設置するほか昭和四九年三月二〇日海上保安庁警備救難部長通達に定めるシーバースの諸安全対策を備えることが疎明され、これによれば、債権者らが主張する大量原油流出を伴う海上事故やそれに引続く海上火災事故が発生する蓋然性は乏しいものとみられる。

なお、タンカー事故により海上に原油が流出した場合、甲九号証によれば、流出油量が六〇〇〇キロリットルの場合、風速〇・五メートル/秒において、油面半径は六〇分後に三三〇メートル、引火危険円は七〇分後六六〇メートル、輻射熱による火傷の危険円は六六〇メートル、風速二及び八メートル/秒において、油面半径は六〇分後に三三〇メートル、引火危険円は一〇分後三三〇メートル、流出油量が一万キロリットルの場合、風速〇・五メートル/秒において、油面半径は六〇分後に四二〇メートル、引火危険円は一二〇分後に七四〇メートル、輻射熱による火傷の危険円は八四〇メートル、風速二及び八メートル/秒において、油面半径は六〇分後に四二〇メートル、引火危険円は二〇分後に四二〇メートルであり、甲一〇号証によれば、IMCO(政府間海事協議機構)の勧告によって巨大タンカーのウイング・タンクの容量は一万四〇〇〇トンに制限されているので、海上での衝突事故等による流出油量とこれによる危険範囲は右の程度を想定すればよいこととなるが、右甲一〇号証によれば、原油は拡散するにつれて揮発性の部分は蒸発し、水溶性の部分は水に溶けるため、残ったものは粘性を増して拡がり難くなること、海面での蒸発は気圧や温度に影響されるが、風があると促進されること、「トリー・キャニオン号」の積荷のクウェート原油は流出後三分の一が蒸発によって失われたとされること、油処理剤は昭和四七年新潟港沖で発生した「ジュリアナ号」の油流出事故で多量に使用され、後遺症が問題となったが、この経験に鑑み処理剤の規格が設けられ、低毒性のもの以外は使用を禁止されたこと、現在使用されている処理剤は、規格により一週間で九〇パーセント以上生物により分解されるものであることが疎明され、これらを総合すると、海上流出原油の火災又は処理剤の海中生物への影響によって具志川市及び与那城村に住居を有する債権者らがその生命、身体又は健康に被害を被る蓋然性も乏しいものと推認される。

2  原油ガスの危険性及び有毒性

また、債権者らは、申請理由七2のとおり、原油から蒸発する可燃性ガスによる火災又は爆発の危険性、悪臭・有毒性及び光化学スモッグによる健康被害の危険性を主張する。

ところで、本件タンクが浮屋根式構造を有することはさきに触れたが、前出乙四一号証によれば、この種の構造では屋根は普通油面に浮いており、その円周部を除く中央部分(タンク上面の面積の約九九パーセントを占める。)では原油は屋根に接するので原油の蒸発は極度に減少すること(コーンルーフ型タンクに比して一〇〇〇分の一である旨の債務者ターミナルの主張がある。)、また、コーンルーフ型タンクのようにガスがタンク内で爆発限界の濃度に達するまで包蔵されることがないこと、残りの円周部分にはウレタンフォームを耐油性ゴムで包んだソフトシールが配され、ソフトシールはタンクの側壁によく密着するので、ガスの大気中への放散は抑えられることが疎明され、元来石油精製に際して発生するガスに比較すると石油貯蔵タンクから蒸発するガスは遙かに少量であるとされるのであるが、債権者らの主張によっても本件二一基のタンクから蒸発するガスは一年間で原油一・五トン分に相当するにすぎず、原油出荷後のタンク側壁から蒸発するガスも一基で原油一八・六キログラム分に相当するにすぎないというのであるから、タンクの建設予定地がかつての海上で風通しが良好なことをあわせ考えると、債権者ら主張のような危険性には乏しいものと判断される。そして、前記第二の一で触れた債権者らの住居と本件タンク設置予定地との距離からすれば、債権者らが主張する右いずれの危険性ないし有害性によっても、債権者らがこれによって被害を被る可能性は無いといっても過言ではない。

3  衝撃火花による火災

債権者らは、タンクの梁や支柱が腐食で破壊される際の衝撃火花が油に着火しての火災の可能性も主張するけれども、甲一七号証によれば、その実例として挙げる四日市大協石油における事故タンクはコーンルーフ型屋根のタンクであって、本件のような浮屋根式タンクには梁や支柱はないし、右2で述べた浮屋根円周部のソフトシールの機能により浮屋根がタンク側板との接触により火花を発することもないので、右のような火災の危険性は乏しい。なお、タンク火災が発生したとしても、これによって債権者が被害を被る可能性がないことは右2に述べたとおりである。

五  債務者らの災害防止対策等

1  災害防止対策

以上に検討したところによれば、本件タンクについて債権者らが主張する種々の事故や人体に対する被害が発生する蓋然性に乏しいことが明らかになったが、乙三一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙三四号証、前出乙四一、四三号証、文書の体裁、内容及び弁論の全趣旨により千代田化工の担当社員が作成したと認められる乙四二号証並びに弁論の全趣旨によれば、債務者石油基地は、本件CTSにおける万一の事故に備えるため、前記四1の海上事故防止対策のほか、陸上においても次のような災害防止対策を用意していることが疎明される。

(イ) 浮屋根式タンクにおいては、万一火災が発生しても、屋根が割れたり陥没したりしない限り、リング状のシール部において燃焼するにすぎず、可搬式消火器によっても消火が可能であるとされるが、本件タンクにおいては、側板最上部に一基につき一四個の固定式泡消火設備を設けるほか、浮屋根の周辺ソフトシール上にハロン二四〇二自動消火設備を設置する。後者は、火災の熱を感知して自動的にハロゲン化物消火剤を噴出するもので、消火剤は噴出と同時にガス化し、その窒息性と負触媒作用により消火するものである。これに対して、前者は、遠隔操作により、消火に至るまで泡を放出し、燃焼液面と空気とを遮断するものである。

(ロ) 本件タンクは一基ごとに仕切堤によって区分される。仕切堤は、高さ一メートルの盛土で、表面はアスファルトモルタルで覆われる。

また、タンクは、四基ごとに(TA一五、一六、二五では三基につき、TA三二、四二では二基につき)、一次防油堤によって囲まれる。一次防油堤は、高さ一・八五メートルで、表面はアスファルトモルタルで覆われ、その容量は、四基のタンクの基礎の体積、仕切堤の体積、基礎の上面から一次防油堤上面までの高さの範囲内のタンク容積(三基分)及び堤内配管の体積にタンク一基分の容量の一一〇パーセントを加えたもの以上である。すなわち、一次防油堤は、タンク一基が完全に破壊したとしても、その収容全油量を収容するに足りるものである。

一次防油堤には、六〇メートル間隔で泡消火栓と水消火栓が設置されており、前者はタンク側板上部の泡消火設備と同様に遠隔操作で泡を放出し、後者は火災に際し隣接タンクを冷却するための水を放出するが、泡消火栓として利用することも可能である。

二次防油堤は、本件埋立地のうち二一基のタンク建設予定地である西側半分を囲繞するもので、高さは〇・六メートルである。

右仕切堤及び一、二次防油堤は、火災の範囲を局限するとともに、海上への原油流出を防止することを目的とするものである。

2  公害防止協定

債務者石油基地は、沖縄県及び与那城村との間で、本件CTSの操業に関して公害防止協定を締結しているが、乙一一、一二号証によれば、右各協定には次のような内容が含まれていることが疎明される。

すなわち、債務者石油基地は、海上事故対策として、タンカーの着桟は日の出から日没の間に行ない、荒天時にはタンカーの着桟及び原油の荷役作業を行なわず、タンカーがシーバースに着桟中は常時総延長二〇〇〇メートル以上の浮沈式オイルフェンスを展張し、油回収船及び消防艇を待機させ、油吸着剤及び消火薬剤等緊急時の措置に必要な資材等を常時十分に備蓄するとともに要所に適正に配置すること、事業所内の施設等から発生する各種悪臭に対しては地域住民に影響を与えないよう施設及び設備の維持管理を十分に行ない、悪臭防止法第二条で定める悪臭物質については、敷地境界線において、六段階臭気強度表示法による臭気強度二以下とし、事業所に近接する住居地域においては臭気強度一以下とすること、タンクの不等沈下に関する定期的測定及び外観検査を行なうこと、事故又は不慮の事態による公災害が発生した場合、県は操業の短縮又は一時停止を命ずることができ、応急措置を講じても事態が改善されない場合、村は操業の短縮又は一時停止を命ずることができること、公災害防止対策については公開を原則として処理し、必要と認めるときは、県又は村は、施設に立入り、必要な調査、検査及び試験を行なうことができ、債務者石油基地が協定に定める事項の履行を怠ったり、又は違反して公害等を発生させ、又は発生させるおそれがあるときは、県又は村は、当該行為の中止を命ずることができ、債務者石油基地が右の指示に従わず若しくは改善措置を講じないときは操業の短縮又は一時停止を命ずることができること、以上である。

3  法令における災害対策

これら災害対策は、法令によっても講じられている。

まず、暫定指針においては、タンク基礎に関し、基礎工事の期間中は、県において、工事が施工計画書どおりに施工されているかを適宜立入り検査を行ない確認し、基礎工事完了後は施工管理記録を提出させ良好な施工が行なわれたことを確認したうえでタンク本体の工事を開始させることとし(本文3、4項)、基礎工事に関連する仕様書、設計図書、工事記録、検査記録等については、タンクの使用者において保存させておくこと(第四)とされ、タンクの構造に関しても同様の定めがなされている。

次に、現行規制においては、まず、タンク設置許可を受けた者はタンクを設置したとき市町村長等(消防法一一条一項二号により本件では沖縄県知事。以下同じ。)が行なう完成検査を受け、これらが消防法一〇条四項の技術上の規準に適合していると認められた後でなければ使用することができず(同法一一条五項)、タンクの所有者・管理者又は占有者はタンクの位置・構造及び設備が同法一〇条四項の技術上の基準に適合するように維持しなければならず、不適合の場合には、市町村長等は右の者等に対し右技術上の基準に適合するように修理し、改造し又は移転すべきことを命ずることができ(同法一二条二項)、市町村長等は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるときは、タンクの所有者等に対し当該タンクの使用の一時停止を命じ又は使用を制限することができる(同法一二条の三)とされる。また、タンクの所有者等は、約一〇年に一度又は不等沈下その他政令で定める事由が生じた場合に、市町村長等が行なう底部の板厚及び溶接部に関する保安検査を受けなければならない(同法一四条の三第一項第二項、政令八条の四第二項第三項)とされる。

第五本件差止め請求の許否

以上の検討結果を総合すると、次のように考えられる。

本件CTS建設によって債権者らの生命、身体又は健康に生ずべき被害としては、まず、タンク内の火災又はタンクから漏出した原油の火災の輻射熱又は黒煙によるものが考えられる。しかし、タンク内で火災が生じる蓋然性は、前叙の浮屋根式構造及び浮屋根円周部のソフトシールによる蒸発防止と金属の衝撃による火花発生の危険防止により乏しいうえ、固定式泡消火設備及びハロン二四〇二自動消火設備はタンク上面円周部における火災の初期消火に有効である。これに対して、タンクの底部の破断により原油を漏出する可能性は、水島事故の例にみるとおり、地盤改良の不十分、基礎の施工不良、溶接不良、施工検査の不十分、建設後の保守管理及び保安点検(基礎の沈下量の継続観測を含む。)の不十分などが原因となって生ずる可能性がないとはいえないが、タンクの地盤、基礎及び構造に関する研究ないし規準は、種々の事故の経験を踏まえて進歩発展をみており、とりわけ水島事故ののちに強化された規準により安全面で相当の強化が図られているので(本件における計画が地盤改良、鋼板の板厚において水島の事故タンクとは相当に異なることは以上の判示によって明らかである。)、設計上の不安はなく、むしろ実際の施工において十分な施工管理がなされるか否か、タンク建設後の保守管理と保安点検が十分になされるか否かにかかっているものというべく、これについては、債務者ら自らの努力と心構えが第一義的に重要であることはいうまでもないが、地域住民の利益を代表する沖縄県及び与那城村において、事業所内への立入り、調査、検査、試験等を行なうことができ、一定の条件のもとで操業の短縮や一時停止を命じうることは、公災害防止上有力な監督及び防災対策の手段であるといえる。しかして、万一原油のタンク外への漏出が生じたとしても、仕切堤及び一次防油堤により原油の拡散範囲は制限されるし、事業所内では火源の制限により引火の危険性は低く、固定泡消火設備もあるので、大規模な火災に発展させないための防止対策には一定の効果が期待できるうえ、引火という最悪の事態が発生した場合を仮定しても、タンク一基ないし一仕切堤内での炎上では債務者石油基地内のタンクと宮城島桃原区の民家との最近接距離とされる三五〇メートルの範囲内でも人の生命、身体又は健康に対する著しい侵害の結果は生じないものであるし、一次防油堤一区画内の全面火災ともなれば右桃原区の住民にとっては相当の影響を生ずべき可能性を否定できないが、その程度の大規模な事故となるとまず稀有のことであって、このことは、前述の沖縄本島における大地震の可能性の乏しさからすれば、なおさらのことであるが、まして、債権者らのように、本件タンク建設予定地との間に最短で一キロメートルの距離を距てた者に対して被害が及ぶ可能性はまずないといっても過言ではない。

次に、海上における流出原油の火災の輻射熱又は黒煙による被害の問題があり、これが債権者らにとっての問題となりうる点である。しかし、金武湾内において、船舶航行量が乏しく、水深も十分且つ潮流も緩やかで、入港及び着桟に当って前認定の如き安全対策が確保される本件CTSにおいては、衝突又は乗揚げ等による大規模な原油流出事故発生の蓋然性は乏しいものというべきである。

さらに、原油から蒸発するガスによる火災、悪臭、有毒性、光化学スモッグの可能性については、蒸発量がそれほど大きくないうえ、風による拡散もあり、前認定の公害防止協定による制限も加味すると、債権者らにとって、悪臭、有毒性及び光化学スモッグなどによる被害は問題とならないし、火災による被害の問題は前叙のとおりである。

かくして、金武湾に面する具志川市及び与那城村に住居を有する債権者らについてみても、その生命、身体又は健康に被害を被る蓋然性はないか又はきわめて乏しく、その余の債権者らについては右の蓋然性は全くないというべきである。

そうすると、利益衡量を問題とするまでもなく、差止請求権は成立しないから、債権者らの債務者両名に対する本件仮処分申請は、すべて理由がない。

第六結論

よって、債権者らの本件申請を却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 照屋常信 裁判官 岡光民雄)

<以下省略>

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